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第8話 俺は死んじまっただ?(1)

 ふっと意識が浮上して、吸い寄せられるように覚醒に導かれた。  似たような感覚を味わったばかりのような気もするが、今度は深い闇の中に()ちていくこともなく、自然に(まぶた)が開いた。  細かな模様が描かれた、見慣れない豪奢な天井。窓から差しこむ明るい光。  ひどく寝心地のいい寝具の感触に、我知らず深い吐息が漏れた。途端に、少し離れた場所で気配が動いた。 「目覚めたか?」  見覚えのある人物が傍らまで近づいてきて、静かに尋ねた。意識が途切れる寸前、去っていく後ろ姿に追い(すが)ろうとした相手、例の銀髪美人だった。 「……あんた、名前は?」  掠れる声をなんとか搾り出すと、こちらを()つめる青玉の双眸(そうぼう)が驚いたように見開く。直後に、顔を横に向けてクスクスと笑い出した。  ……なんだ?  なぜ急に笑われたのか理解できず、呆気にとられた。銀髪美人はなおも笑いながら、こちらに視線を戻した。 「そなたは、おもしろい男だな。まさか開口一番に、自分の置かれている状況ではなく、名を訊かれるとは思わなかった」 「あ、それは……」  そういえばそうだった。指摘されてようやく思い至る。  ここ、どこだ? 「我はリュシエル。ここは我とそなたの屋敷だ」 「あんたと、俺の?」  言われて、自分がいま、四隅に立派な支柱が立った、どでかいベッドに横たわっていたことに気がついた。意識を取り戻して最初に目にした華やかな模様は、どうやらその柱に支えられた天井であったらしい。いわゆる天蓋(てんがい)付きというやつだ。  ――こんな王侯貴族ばりの豪華なベッドを置ける屋敷が、俺の家でもある?  混乱する頭で、なにをどう考えたらいいのかと頭を悩ませかけたタイミングで、「ああ、すまない」と銀髪美人の声が割って入った。 「我とそなた、ではないな。我とエルディラントの仮住まいだったのだ」  説明する表情に、(かげ)りが落ちた。 「あ、えっと……」 「先刻はすまなんだ。感情的になるあまり、心ない振る舞いをした」 「ああ、いや、俺のほうこそ……」  急にしおらしくなられると、こっちも反応に困る。なにより、愁いを帯びた様子に胸がチクリと痛んだ。その原因が、自分だからだ。  気まずさをおぼえながらも身を起こすと、銀髪美人は咄嗟に手を伸ばしかけ、あわてて引っこめた。だがすぐに、躰を預けやすいよう枕を腰にあてがってくれた。 「その、こっちこそさっきは大人気なかったっていうか、自分になにが起こってるかわからなかったもんで、つい取り乱したっていうか。だからまあ、お互いさま……的な?」  弁解がましいことをもごもごと言いながら相手の様子を伺うと、銀髪美人はわかっているというように頷いた。 「あ~、えっと、また意識飛んでたみたいだけど、今回も助けてもらったっていうか、ここまで運んでくれたのも、おたく、だよな? なんだっけ、あの、光の眷属?の力、とか言ってたっけ?」 「眷属の力というわけではないのだが……」 「え?」 「いや、なんでもない」  銀髪美人は力なく笑って、自分が連れてきたのだと肯定した。 「勝手なことをしたが、あんなふうに目の前で倒れられては、そのままにしておくこともできなかったのでな」 「悪い。面倒をかけた」  素直に謝罪すると、相手もまた、気にすることはないと穏やかに応じた。

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