29 / 130
第9話
僕達は出番が来るまで部屋の隅で話をした。
遵のお家は大家族でたくさん妹や弟がいる事。
お父さんが病気になってお母さんと遵が昼も夜も働いて家計を支えてる事。
それでもお父さんの治療費や小さい弟妹の学費や生活費が足りない事。
話すのも辛そうな事を遵は淡々と話してくれた。
「家の近くにね、あんまり評判の良くないおじさんが居るんだ。その人が『遵なら家族を楽にしてやれるよ』って言うからここに来たんだ。」
そう呟いた遵の瞳はしっかりとした決意が込められてた。
「そっか・・・じゃあいい主人が買ってくれたらいいね。」
「ううん・・・僕を高くで買ってくれる人なら誰でもいい。それで家族が楽になるなら。」
部屋から出て行く“商品”を見つめながら呟く遵の横顔は、さっきまでと違って凄く男らしく見えた。
「次!お前だ。」
従業員が僕達の方を指差して呼んだ。
「行かなきゃ。」
床に手を付いて遵が立ち上がる。
「行ってきます。」
僕を見下ろして微笑むと遵は部屋を出てステージに向かう。
僕はその後ろ姿をただ見えなくなるまで見送っていた。
ともだちにシェアしよう!