92 / 130
第12話
何か喚いている世蓮をよそに運転席に廻ると俺も乗り込む。
「世蓮の身の回り品を会社の俺のプライベートルームに送ってくれ。」
「畏まりました。お気を付けて。」
俺達の様子を優しい顔で見つめてた執事に言うと恭しく頭を下げて言われた。
だから好きだよ、執事殿。
左手を軽く上げて車を出す。
夜中とは違うワクワク感を胸にハンドルを握っていれば。
隣から今まで聞いた事のないくらい大きな溜め息が聞こえてきた。
「嫌、だった?」
前を見たまま聞けばこちらに視線が飛んでくるのが解った。
「むちゃくちゃですね。また金さんに愚痴られますよ?」
攫われた事じゃなく、俺の心配をしてくれた事が嬉しい。
「金も諦めてるよ。」
俺の我が儘に付き合わされるのなんて。
秘書の小言なんて気にしないよ。
慣れてるのもあるけど。
世蓮が側に居てくれたら全然苦にならない。
たぶんあの退屈な会議でさえも世蓮に会える楽しみに替えられる。
弾む気持ちを抱えたまま明るくなった街を駆け抜けて会社へと向かった。
ともだちにシェアしよう!