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第3話

僕がこの店に来たのは生後3日ほどの時だった。 「来た」は語弊があるか。 僕は生後まもなくこの店の前に捨てられていたらしい。 まだ肌寒い春の早朝。 弱々しく泣く僕を拾ってくれたのはこの店の楼主で、男世帯のこの店で僕は男娼や世話係達に育てられた。 大きくなったらこの店で働く。 それは必然的な物で、僕はそれを当たり前のように考えていた。 だから15歳になったある日、楼主に「お前はどうしたい?」って聞かれた時は正直驚いた。 「僕はこの店に命を救われた。だから僕はこの店で働きます。」 そう言うと楼主は困った顔で 「そんなふうに思わなくてもいい。お前は他の男娼達とは違うんだ。ここはお前の家で、職場では無いんだよ。」 そう言う楼主に僕は感謝の言葉を述べて、でも恩は働いて返すことを伝えた。 最初は頑なに首を縦に振らなかった楼主も最後には根負けして働く事を了承してくれたんだ。 僕の我儘を聞いてくれて本当に感謝してる。 だから僕は僕なりの恩返しをしようと思っていた。

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