118 / 130
第4話
ここは『BLUE ROSE』。
飲食店や花街が集まる夜の街の中にある僕の職場。
スナックやクラブなどが集う繁華街でも特に高級と言われる会員制のホストクラブだ。
黒服が立つ重々しい扉の前に滑らかに停車した黒塗りの高級車のドアが屈強な男に恭しく開けれた。
「送ってもらってありがとうございます。」
「後で顔を出す。」
それだけ言うと黒塗りの高級車はビジネス街へと走り去った。
車が見えなくなるまで見送った僕は踵を返して重く重厚なドアへと向かう。
手を伸ばす前にドアは黒服によって開けられそれにお礼を言って職場へと足を踏み入れた。
「おはようございます、楽都さん。」
「おはよう。」
まだ入ったばかりの新人が掃除する店内を見渡して挨拶しながら控え室へと向かう。
少し薄暗い店内にはゆったりとしたジャズが流れて、落ち着いたソファーやテーブル等の調度品はオーナーのセンスの良さが伺える。
控え室の扉を開けると中には既に数人のホスト達がそれぞれ開店前の準備を始めていた。
「おはようございます、楽都さん。」
「おはよう、優希。」
「それ、何ですか?」
手にしていた白い箱を指差して後輩が聞いてくる。
「あぁ、これ?これは今日来られるお客様に。誕生日が近いからね。」
控え室の冷蔵庫に来る途中に買ったケーキの箱を入れながら答える。
この近くでは結構有名な菓子店。
そこで出会った綺麗な男の子に選んで貰った事を思い出して頬が少し緩む。
声を掛けたのはほんの気まぐれだった。
ショーケースの中を大きな瞳を輝かせて覗いてる横顔が可愛くてついつい話し掛けていた。
そんな僕に戸惑いながらも付き合ってくれたもう会うこともない彼。
そんな些細な出来事も今の僕にはとても楽しい出来事だった。
ともだちにシェアしよう!