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第9話

「久し振りだね、楽都。元気にしてたかい?」 少し緊張しながら中に入るとそこには穏やかな微笑みを称えた人が出迎えてくれた。 「紫苑さん、いらっしゃいませ。」 見知った顔に少しだけ緊張を解いて歩み寄ると革張りのソファーに座るその人の隣に腰を下ろした。 「いつ見ても綺麗だね、楽都は。肌も艶々で羨ましいよ。」 長い指が頬を軽く撫でる。 羨ましいと言うこの人もかなりの美人なんだけど・・・ おまけに年齢不詳で、初めて会った時から変わらない気がするんだけど。 「紫苑さんに言われても嬉しくない。紫苑さんだってお肌ツルツルじゃないですか。」 「そんな事は無いよ。私はもうオジサンだからね。」 そう言って笑う顔は『オジサン』と呼ぶには違和感があり過ぎた。 VIPルームに入る前の変な緊張感は解けて自然と笑顔になる。 紫苑さんは人を和ませる不思議な力があるんだと僕は思う。 「褒め合いは終わったか?」 和やかに話してた僕達の空気を割って低く艶やかな声がその場の雰囲気を少しだけ変えた。 ヘルプに付いていた若いホストが一気に緊張してしまう。 「何?せっかく和やかな空気だったのに。ぶち壊すのは辞めて欲しいな。」 「それは悪かったな。こっちは遊びで来てるんじゃないんでな。」 「本当に無粋な男だ。昔からそうだけど。」 紫苑さんが呆れながら言うと空気を壊した本人は全く気にした様子もなくグラスに注がれた茶色い液体に口を付けた。 「遊びじゃないって・・・?」 「そう。今日はちょっと打ち合わせにね。悪いんだけど、楽都以外は席を外して貰えるかな?」 紫苑さんに優しく促されてヘルプのホスト達が一礼して部屋を出て行く。 それを見送って視線を戻すと切れ長の黒い瞳に囚われて僕は息を呑んだ。

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