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第10話

少しの静寂。 僕はこの黒い瞳に見詰められると一瞬で囚われてしまう。 「楽都、こっちに座ったら?『王』のご機嫌が悪くなる前に。」 僕とは反対側のソファーを軽く叩いて促される。 そこは紫苑さんと『王』の間で、少しだけスペースが空いていた。 視線を紫苑さん越しに向けると無表情でこちらを見る端正な顔が僕を凝視していた。 その視線が「早く来い」と言っている様で、僕は素直にそれに従う。 紫苑さんの前を通り越してソファーに腰掛けるとすかさず肩を抱き寄せられる。 「私にも嫉妬、ですか?」 「お前が気安く触るからだ。お前も気安く触れさせるな。」 さっき紫苑さんが頬を撫でたのを言っているんだろう。 触られた所にそっと触れて男らしい指が同じように撫でる。 他人には絶対見せない姿に嬉しい様な恥ずかしい様な複雑な感情が込み上げた。 「元は私の所に居たんですよ、楽都は。」 「元は、だろ?それにお前は『親代わり』だ。コイツは今は俺のモノだ。」 理解し難い理屈に紫苑さんは呆れたように肩を竦める。 僕はそのやり取りをやはり複雑な気持ちで聞いていた。

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