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第14話

連れて行かれた先で先ずはお風呂に入れられた。 そこは温泉にある様な大浴場で、贅沢にも利用者は僕と僕をここまで運んで来た樹と呼ばれたガタイのいい男だけ。 歩く気力も座る気力も無い僕の身体を軽々と抱えたまま樹は着ていたシャツとスラックスが濡れるのも気にせず洗い場のシャワーの前に腰を下ろした。 髪を洗い身体を清める様に洗うと樹は階段状になった広い湯船に僕の身体を沈める。 時々体勢を崩してお湯の中に沈みそうになるのを浴槽の外から支えて温めてくれた。 「・・・あの・・・」 ずっと無言のままの樹に首だけ振り向いて話し掛けると視線が言葉の先を無言で促す。 「服・・・濡れてる・・・」 僕の身体を洗う為にずぶ濡れになった事を聞くと彼は少しだけ視線を自分の服に落としてまた僕を見詰めた。 「気にするな。仕事だ。」 初めて交わした言葉は短くて、身体に見合う低い声が何だかとても心地よかった。 それからまた広い浴室に静寂が訪れて、僕の意識はお湯の心地良さと今までの疲労で今にも遠のきそうになっていた。 「そろそろ上がるぞ。」 凛とした樹の声が響いて身体がフワリと浮く。 そのまま横抱きにされて浴室を出ると今度は細身の男の人がバスタオルを持って待っていた。 「ご苦労様、樹。後は俺が替わるよ。」 その言葉に樹は僕を細身の男の人に預けて出て行く。 その後ろ姿に少しだけ不安を覚えた。 「ぁ・・・あの・・・っ!」 思いの外小さかった僕の声に樹が立ち止まる。 肩越しにこちらを振り返って視線が僕を捉えた。 「あ・・・りがとっ・・・ざいま・・・すっ・・・」 ちゃんと届いたか分からない感謝の言葉。 不安なまま樹を見詰めてると 「ちゃんと飯は食えよ。」 そう言って樹は脱衣場から出て行った。 「へぇ~樹がねぇ・・・」 閉まった扉を見詰める僕を抱えていた男の人が呟く。 その声音は楽しそうで、でもそんな声もその時の僕には届いていなかった。

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