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第7話
先生って時々とても可愛らしいですよね、と最後にまたそうして棗 さんがからかいの言葉を私にかけたとき、「……隆義 さん」と彼の声が聞こえたような気がした。
気のせいか? と思いながらも、彼女に預けていた頭をゆっくりと上げて確認してみると、眉を垂らして私たちを見ている弘明 くんがいた。
久しぶりに彼の顔を見られたと、何となく嬉しく思ったのも束の間、誤解されかねないこの状況に焦る。
「あ……」
「その俺、荷物を届けたついでにあなたの顔を見ようと思って来たんですけど、邪魔して、ごめんなさい」
「弘明 くん、違うんだ。これは」
違うんだ……って、何を焦って説明する必要があるのだろうか。
仮に今、棗 さんが私の恋人だという誤解をされたとして、その誤解を必死に解いても解かなくても、彼には何の関係もないのだ。
それに、知りもしない彼ひとりに誤解されたくらいで、棗さんもどうこう言う人でもないのだから。
「先生、この人……誰です? 隆義 さんって、どうしてあなたの名前を?」
「えっと、棗 さん、これは、」
「ちょっと待ってください! ひろ……何とかって言う君もちょっと待って。ねぇ、先生。友人ができたんですか? 私以外に? やっと?」
彼女は持っていたビニール袋を投げ捨てるようにして手放すと、人目も気にしないで大きくガッツポーズをした。
彼女の言動に私も戸惑っているのだから彼も相当戸惑っているだろうと思って見れば、ポカンとした顔で彼女を見ている。
彼女のこの明るい性格に救われることも多いけれど、今は少し恥ずかしさが勝ってしまう。
よく知りもしない人の前で、行動が大胆すぎる。
「いや~、先生良かったですね。孤独な生活から抜け出せるんですよ。私しかいないと思ってましたが違ったんですね。孤独なおじさんって心の中で呼んでましたが、もう呼びません。心の中でも先生って呼びます。えっ、じゃあ電話したとき元気なかったのって、新しくできた友人との接し方が分からなくてとか、そんな感じですか? 一体いつから友人がいなかったんです? その歳でもまだ接し方が分からないんですか? 対人スキルのレベルどのくらいです?」
相変わらず息継ぎもせずに言いたいことをべらべらと言う彼女に心が折れた。
私でなければ許されない言葉でも、私は嫌だと思うことも怒ることもなかったけれど、孤独なおじさんだというその事実を彼の前で話されてしまったことは恥ずかしいし、変な責任を負わせてしまいそうな彼女の発言に固まった。
さっきの誤解は解かなくても良かった内容だったけれど、今回のは誤解ではなく事実であって、でもそれは言ってほしくなかったことで、あぁどうしたらいいのだろう、何の言い訳も浮かばない。
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