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第14話
◇
触れられた翌週、何事もなかったように彼が私の家にやって来た。
シャワーを一緒に浴び、されるがままに身体を洗われながら、鏡に映るふたりの姿を見て惨めになりざわついた心に蓋をして過ごしたこの一週間は、私にとってはひとりで過ごしてきた数年間よりも長く感じたというのに。
彼は、これまでのような爽やかさをまとい、自然に私の前に立っている。気にしているのは私だけだったのだろうか。
連絡先も交換せずに帰って行った彼の背中を思い出しながら、友人としての関係もこれで終わったのだろうか、そもそも彼が私に求める友人像はどのようなものだったのか、私は彼に何を期待してしまったのか、その期待は何からくるものなのかについて、仕事も手につかずに考えていた私が馬鹿みたいじゃあないか。
「隆義 さん、開けてもらえて良かった。俺、あの日あまりにも浮かれていて、連絡先も聞かなかったから」
「えっ、」
「俺、ほんっとうに馬鹿なことしたって思っていました。でも、家にお邪魔しても失礼にならない時間に仕事が終わらなくて、でも仕事中で時間が取れないのにここに来るのも違うなって、それで」
「ぷっ」
さきほどまで悩んでいた自分が気にならなくなるほどの彼の動揺っぷりに、思わず笑いがこぼれた。
誰かの前でこんなふうに笑ったのは久しぶりかもしれない。
彼がそんな私を見て驚いた表情をしたが、すぐに安堵感がみえた。
「そこまで気にしているとはね。あんなことしておいて」
「や、本当にその通りです。でも、気にしますよ。だってやっと隆義 さんと……」
じりりと熱が滲んだ視線で見つめられる。こんなふうに空気感が急に切り替わると対応できるはずもなく、今度が私が動揺し、一歩部屋の中へと下がる。
弘明 くんも一歩中へと入り、玄関のドアを閉めた。
外の光がなくなり、少しだけ暗くなった玄関は、この間の熱を思い出させるようだ。
「それで、今日は何をしに……?」
「今日は、あなたとゆっくり過ごしに……。お仕事、忙しくなければ。忙しかったら連絡先だけ聞いて帰ります」
けれど、彼の視線の熱はすぐに消え、今度は垂れた耳が見えた。連絡先だけのために、わざわざ来てくれたのか。
「ははっ、」
しゅんとした姿が可愛らしいとすら思えてしまう。
「仕事は全然進んでいないが、まあ少しくらいなら」
思わず招き入れてしまったが、彼があまりにも口角を上げて笑うから。自分でも触れられない胸の奥がくすぐったくなった。
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