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第17話

 私の家なのに彼がソファへと案内してくれる。カバーの毛玉が気になりながら腰かけると、くっつくようにして彼が隣に並んだ。  猫背の私とは違って、伸びている彼の背筋につられて私も姿勢を正す。 「なんでそんなにシャキッとしているんです?」  彼が顔を覗き込んだ。不意なことで避けられず、鼻がぶつかりそうだ。  彼の揺れた柔らかな髪からは、上品な香りが漂った。 「え、ああ……。姿勢があまりにもおじさんだったから?」 「なんだそれ」  彼を意識し落ち着きなどどこかに捨ててしまった私に対して、彼はお腹を抱えて笑い、一人でいる時よりもソファが沈む。  普段と異なるその感覚に、ソファとは反対に気持ちが浮つく。  こんなことなら三人掛けのソファを購入すれば良かった。物欲がなく大きな買い物をしないから、お金だけはたくさんある。三人掛けのソファくらい、容易く買えるだろうに。  けれど、どうせ大きなソファを買ったところで彼は、今しているように私に肩を寄せて座るのだろう。  それならば、私がこの距離感に慣れるしかないのか。今後も彼が家にやって来る度に、落ち着いて隣に並べるように。 「なんだか良いですね。こういうの」  私の肩に頭を預けた彼が、上目遣いで私を見つめた。息が首筋にかかり、くすぐったい。 「……こういうのって、どういうの」 「あなたとふたりで、こうしてゆっくりと過ごす時間のことですよ」  話を逸らすつもりで返した言葉は、さらなる威力をもって跳ね返ってきた。  動揺を自ら招いてどうするというのだ。  重なり合っていた視線を、壁の本棚へと送る。このまま彼のことを見ていると、触れている肩から私の心臓の音が彼に伝わってしまいそうだ。  頬の内側が、じりりと焼かれるように熱い。彼といる時はいつもこうなってしまう。 「弘明(ひろあき)くん、首が疲れるんじゃあ? 私の肩のほうが低いから、痛くなってしまうよ」 「痛みが残るなら嬉しい。あなたとの時間を思い出せるから。それからこの髭も」 「えっ……!」  いくら私の髭が伸びて少し柔らかくなってきたとはいえ、彼は迷いなく自分の頬を寄せた。「少しだけジョリっとしますね」という彼の笑顔が眩しい。 「この感触も忘れません」 「髭は……、もう剃るよ」 「剃っちゃうんですか? 残念」  本当は残念だと思っていないだろうに。髭を剃った姿も、また見たいとそう思っているに違いないのに。  以前も髭を剃った私に対して、「髭のないあなたも新鮮で素敵」だと、そう言ってくれたじゃあないか。  出会ったばかりの頃を思い出し、頬の熱を誤魔化すどころか、自ら火をつけていく。  そうしてそんな想像をして、胸の奥までも温かくし、幸せな期待をしている自分自身に、馬鹿みたいだと乾いた笑いがこぼれた。

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