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第18話
「じゃあ、今日はこれで。突然お邪魔してすみませんでした。お仕事頑張ってくださいね」
「ああ……、ありがとう」
「三週間後、また来ます。連絡もしますね」
あの後しばらくの間、肩を寄せたままでテレビを見た。どこかの配信サービスを契約しているわけでもないから気の利いた映画も何もなく、突然のことだからと言い訳して、彼をまともにもてなすこともできなかった。
なんとなく選んだお笑い番組を見ながら、彼はけらけらと笑っていたけれど、私は笑いのツボも分からなければ、スピード感を持って進んでいく掛け合いについていくことができず、取り残されたような感覚があった。
というのは言い訳で、視界に入る本当は彼の横顔を意識しすぎたせいかもしれない。
まだ、触れていた右肩には熱が残っているように思えるし、みっともなく頬も火照ったままだ。おさめ方が分からない。
彼はもう帰ってしまってここにはいないのに、残った香りと、普段とは違うように感じられる室内の温度に、いつまで経っても落ち着きを取り戻せない。
これだけのことでここまで反応してしまうというのに、これから三週間も会えないのだとしたら、私はどうなってしまうのだろうか。
それに、あの日玄関で、あそこまでの醜態を晒す行為をしたし、彼もそれなりに余裕をなくすほどだったと覚えているけれど、今日はたった一度だけで、しかも少し触れるだけの軽いキスだった。
どうして欲情に満ちた瞳で私に触れてくれなかったのだろう。
部屋にあげた時から、どこか期待してしまっている自分がいたことは自覚していた。
肩が触れる度に、視線が交わる度に、ああこのまま私に触れてくれないかと、そんなことを考えていた。
私の頬の熱に負けないくらい、火照った彼の指先で、首筋からうなじへと体温を移し、そのまま服の下にまで手を伸ばしてはくれないものかと。
「あぁ……、なんでこんなこと。みっともない」
もうすぐ五十で、自分を良く見せるための努力もしていない、平凡で、人との関わり方も下手な、ただのおじさんでしかない私が、まだ若くて、眩しすぎるくらいに輝いて見える彼に対して、これだけの期待を抱くことがあって良いはずない。
彼が知ったら、何を思うのだろうか。「隆義 さん」と名前を呼びながら、私を見つめ笑ってくれるのだろうか。
そうして、期待を抱く私を、触れてもらえなかったことを残念に思ってしまうような私のことを、可愛い人だと受け止めてくれるのだろうか。
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