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第19話
友人の距離感でないことを、はじめに指摘したのは私なのに。
今では私のほうが、彼を求めてしまっているように思う。この感情を認めた先にあるものは、きっと私にとっても彼にとっても良くないことだろうに。
「私は大馬鹿者だ」
触れてもらえなかった事実が、より前回の熱を強く思い出させた。ソファに戻り、彼が座っていたところの匂いをかぐ。
微かに残る柔らかな香りで、あの日の体温が蘇った。
彼は、どんなふうに私に触れていた?
「はぁっ、」
隆義 さん、と耳元で私の名を囁く彼の声を思い出しながら、彼が触れた通りの順に身体をなぞる。
これまで頻度は多くないにしろ、処理を目的としてばかり抜いていた中で、今日だけは誰かを想い、求めながらしているのだから、人生何があるか分からないな。
この姿を見て何をやっているのかと笑う者はこの場にはいないし、自分の息遣いしか聞こえないこの空間がまた、徐々に私を大胆にさせていく。
彼が私に馬乗りになり、欲情した瞳で射抜くように見つめた。視線を合わせればチカチカと意識が飛びそうになるが、隆義 さんと呼ぶ声に現実に戻され、快感を突きつけられる。
こんなふうに想像するだけで、彼がそこにいて私に触れているように思えるほどには、あの日の記憶が鮮明に残っている。
「はぁっ……」
大きく主張した彼のペニスと、私のものも一緒に包み込んでくれる、少しゴツゴツしたあの大きな手はないが、思い出した感触に身を捩らせ、自身の手を上下に動かす。
「ん……、」
刺激が足りない。今までこんなことはなかったのに。
私の反応を確かめながら、更なる快感を引き出そうとする彼の指先、そこから伝わる体温、熱を帯びた吐息、滴る汗、欲情した瞳。
はっきりと思い出せるのに、遠い昔のように感じるのは、それだけ私が次を期待し、待ち遠しく思っていたからなのだろう。
「本当に、何が友人だ……。こんなことっ、」
熱が収まらずに快感を求め続ける自身を握る手に、徐々に力を込める。あと少しで果ててしまいそうだと朧げに思った時に、彼の「隆義 さん、もうイきそうなの?」と、満足そうに笑う声が聞こえた。
「ああっ……」
ドクドクとした白濁が手から溢れ、床へと垂れていく。汚れないように何か敷いておけば良かっただとか、早く拭かないと乾いてしまうだとか、そういうことを気にする余裕もなく、ただ、目の前にいない誰かを想いながらこの行為をすることへの痛ましさだけが残った。
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