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第22話
聞こえた深呼吸はこのためだったのかと思うほど、一気に言い切る彼女に、なんだかそれだけのことで元気をもらえた気がした。
よくも噛まずにここまで話せるな。それに頭の回転が早いのだろう。すらすらと言葉が出てくる。
さすがだと伝えると、「先生がそんなんだから、私がこうなるんですよ」と返された。
「ねぇ、先生。先生は私とどんな友人になりたいですか?」
優しい声色で棗 さんがそう尋ねる。どのような友人かと問われると、それは少し難しいかもしれない。
何かあった時には私を助けてくれ、時には厳しいことも言われるけれど、いつも素敵な笑顔を見せてくれる。太陽みたいに温かい彼女に救われてきた。
与えられてばかりで、私は何か彼女に与えられたのだろうか。私にとって彼女は大切な人だけれど、彼女にとって私は、いったいどのような友人でいられるのだろう。
「私はね、先生と仕事以外でもたまに会って、からかい合いながら楽しく笑っていたいです。先生が落ち込んでいる時は、背中を叩いて、前を向けるように励ましたい。しんみりした空気感は私たちには似合わないから、ポジティブに過ごしたいなと思います」
答えないと言うことは、どうせ私にとってどんな存在でいられるのだろうとか、そういうくだらないことを考えていたのでしょうと、いつもの調子で彼女が笑う。
その通りだと返すと、「ほうらね! 私は先生のこと何でもお見通しなんですよ!」と、彼女が嬉しそうに声を張る。
その後ろで、楽しそうだなと別の声が聞こえ、彼女が仕事中に電話をくれていたことに気付いた。
「時間をとって悪かったね。それで何の用事だったかな? 私の話に付き合わせて申し訳ない」
「はぁー、やだやだ。担当編集者が作家さんに電話をかけて、雑談することの何がいけないんです? 特に用事はなかったんですよ。ただ、先生がね、寂しいんじゃあないかなって、なんだか急に心配になったんです」
そんなことを気にしちゃう私って可愛いでしょ? と、彼女がからかった口調でそんなことを言う。
「ははっ、可愛い可愛い。君はいつでも可愛いよ」
「先生もそんなことが言えるようになったんですね。成長を感じますよ。……ねぇ、先生。もう少しお話しませんか? どうせ珈琲ばかり飲んでいて、執筆なんてこれっぽっちも進んでいないんでしょうから」
私も飲み物を取ってこようと、彼女が椅子から立ち上がる音がする。彼女に聞いてほしいほどにまとまった伝えたいことはないが、まだ電話を切りたくないと思ってしまう。
彼女の提案に、素直に甘えてみても良いかもしれない。どうせ、彼からも連絡が来ないのだから。
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