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第25話

   メールの返信とは違い、一度切られてしまってもおかしくないほどの時間をあけ、ゆっくりと通話ボタンを押した。鼓動が身体の内側から全身に響き、指先まで震えてくる。  私が電話に出たことに対して、良かったと言った彼の、安堵のため息が聞こえる。 『出てくれないかと思いました。電話は抵抗あります……?』  何かの作業中に抜けてきたのだろうか。息切れしているのか、いつもより息が荒く感じる。 「最近は(なつめ)さんとしか話していなかったから。なかなか慣れなくて」 『(なつめ)さん? ああ、以前お会いした女性ですね。よく話されるんですか?』 「今日も話したかな」 『仕事の話?』 「え? ああ、まあそうだね」 『いいなぁ。俺も仕事の話があれば、もっと気軽にあなたに電話をかけられるのにね』    心の底から羨ましそうな声でそんなことを言う彼に、動揺した私は「それより今は仕事は大丈夫なの?」という関係のない話題を繋げてみた。  それもお見通しなのだろう。「まだ少しあるからいいんです」と話を戻される。 『連絡をするとそう言ったけれど、あなたからの連絡を期待していました。いつも俺からだから、たまにはあなたからも求めてほしいなぁと。でもそれじゃあいけないなって思って、メールしたんです』  私の期待からくるものなのか、実際にそうなのかは分からないが、彼の声も震えているように感じた。 『思ったより早い返信がきて、俺、とても嬉しかったです。もしかしたら俺からの連絡を待ってくれていたのかなと、胸が踊りました。でも確かめないと分からないから、電話もしてみたんです。文字だけだと、あなたの気持ちが分からないから。俺の都合の良いように、期待してしまうから』 「期待って……」 『やっぱり声からは伝わりますね。あなたの気持ちが、俺の一方的な願望でなくて良かったと、声を聞いて思いました』 「何が伝わるって? 一方的な願望?」  たった少し声を聞いただけで、私の何が伝わったのだろうか。なかなか連絡がもらえずに気にしていたこと? 友人関係に悩んでいたこと? それとも今、会いたいと思っていること……? 『なんでしょうね。あなたには俺の気持ちが伝わらない?』 「弘明(ひろあき)くんの気持ち?」 『ねぇ、隆義(たかよし)さん。電話って、ダメかも。声を聞くと会いたくなりますね。あなたに、たまらなく会いたいです』 「……っ、」    何も言葉を返せずに黙り込んでいると、彼は「伝わっているからいいんです」と画面越しに笑った。  それじゃあ今、たったこれだけのことで胸が満たされていることも彼には伝わっているのだろうか。  それでも、それを直接言葉にして伝えることは難しい。素直に認めてしまう勇気は、今の私にはまだないのだ。  彼が仕事に戻るまでの時間、他愛のない話をし続けた。

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