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第26話
◇
彼の言っていた通り、きっちり三週間後に家にやってきた。前日に『明日行きます』とのメールがあり、私が返信をする前に『何があっても行きます』と追加で送られてきていた。
「隆義 さん!」
「うわっ!」
玄関を開けるなり、彼に勢いよく抱きつかれた。その姿は甘える大型犬のようで、尻尾と耳まで見えてきそうだ。
反射的に背中に手を回すと、軽めのキスが頬に落とされる。「髭を剃ったからキスしやすいですね」と耳元で囁かれ、まるでこの日のために剃ったと見透かされたようで心臓が跳ねた。
「隆義 さん、俺に会えなくて寂しかった?」
「え? いや……」
「寂しかったって言ってください。直接聞きたいです。俺は寂しかったですよ」
首筋に鼻先を寄せられ、くすぐったさから身を捩るも、絶対に離さないと私を抱きしめる彼の手に力がこもる。
痛いよと伝えたけれど、知らないと返事をした彼の声色から拗ねているのだと分かった。
最初にメールと電話が来た日以降、彼はこまめにメールをくれたが、慣れない私には一言返すのがやっとで、楽しくやりとり、というほどのものは何もなかった。
声だけでも私の気持ちが伝わるのなら、電話も億劫になるし、文字として残すのも……と色々考えているうちに、文字を打つ指が止まってしまった。
「返事ももう少しほしいし、あなたから電話をもらえないかと期待もしました」
「何をどう話せば良いか分からなくて……」
「そんなの、声を聞くことができればなんでも良いんです」
「待っ、……んっ、」
私からの返事も、反応も待たずに、彼は強引に唇を重ねた。頬や首筋に落とされたものとは違う、少しだけ雑なキス。余裕がないのか、私の呼吸のタイミングはお構いなしで何度も何度も奪われる。
バランスを崩し一歩下がれば、器用に腰を支えられ、彼も一歩私のほうへと踏み込んだ。腰に回された指先は、徐々に下がっていき、柔らかくもない私の臀部を掴むように触れる。
下半身に熱が集中し、自身のがゆるりと起き上がってくる感覚がする。見れば分かるほどには盛り上がったそれに気づかれないようにと、彼の腹部をぐっと押し込み距離を取ろうと試みた。
けれど、その手も彼にあっけなく捕まり、力のやり場がなくなった私に対し、ぐりぐりと下半身を押し付けてくる。
「久しぶりだし、あなたに触れていたら……」
覗き込むようにして下から私を見上げるその彼の視線に吸い込まれそうだ。やっと唇が離れ呼吸が自由にできるようになったというのに、再び重ねられ、それまでよりさらに深いところまで彼の舌がねじ込まれた。
みっともなく口の端から垂れ続ける唾液が顎を伝う。
「隆義 さんのも、勃っちゃいましたね」
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