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第28話
「ちょっと、こうするだけ」
「あっ、あ、……それ、だ、めっ、」
誰かとの性行為自体長らくなかったというのだから、相手が男性で、まして彼にこうして触れられることに、本来は違和感があるはずなのに。
それどころか、彼に抱かれるならこういう感覚なのかと、直接繋がったら比にならないくらい幸せなのではないかと、そういうどうしようもない考えが頭の中を支配していく。
一度も弄ったことのない後孔が、彼を誘っているかのようにひくひくと収縮しているのが自分でも分かり、これを彼に見られでもしたらどんなに言葉で拒否をしたとしても説得力などなくなるのだろう。
「あっ、……はあっ、」
肌と肌がぶつかる音、冷たかった床に自身の汗が流れ落ちていく音、快感が我慢できずに漏れ出る吐息の音、何より彼が私の名前を呼ぶ声だけで、この世界が創られているようだと錯覚さえする。
もう何も考えられない。私の記憶に、身体に、心に、彼がこびりついて離れなくなってしまいそうだ。
「隆義 さんっ、」
「あっ、は、あ、」
「俺もう、出そうです、」
「いっ、!?」
首筋を強く噛まれたと同時に、私は二回目の絶頂を迎えた。
彼は太腿から自身を引き抜いた後、私の背中に向かってそれをかけた。噛まれた箇所にまで飛び散り、痕に染みていく。
彼が私の背中に先を押し付けると、先端からはまだ白濁が出続けているようで、じんわりとその部分が熱くなった。
「隆義 さん、」
「はあっ、は……つ」
「余裕なくて、好き勝手して、ごめんなさい」
ぐったりと横たわる私の手を引き抱き起こすと、大きくて温かなその手で私を強く抱きしめた。
私の首筋に頬を寄せる彼の髪が、鼻先に触れると、それが湿っているのに気付く。こんなに汗をかくなんて、と先ほどまでしていた行為を反芻する。
弘明 くんは、手の甲で汗を拭うと、それから身体中に飛び散った白濁をティッシュで拭き取ってくれた。
それについてお礼を伝えると、舌先で唇を舐められ、それから噛み付くようなキスをされる。
ほてった身体が徐々に冷えるまで、その強引なキスを繰り返した。唇が離れる頃には私ももう止められなくなり、最後は私のほうからキスをねだった。
「夢中になりすぎました。本当にごめんなさい」
「いや、私も……」
「嫌いになりました?」
「弘明 くん。それ聞くの、ずるいよ」
「そうですか?」
「いつもそう思う……」
指先で彼の髪に触れながら、せめてお風呂だけは貸さないとな……と考えているうちに、口から「泊まっていく?」と思っていたこととは異なる言葉がこぼれ出た。
慌てて口を塞いだ私を見て、彼が優しく笑う。
「こんなことしておいてなんですけど、泊まるのはもっと特別な日にしたいです。だからお風呂を貸してください。今日は一緒に入りませんか?」
「……二人は狭いと思うが」
「否定の言葉が真っ先に出てこないことが嬉しいです。狭くても良い。あなたとくっついて入れるから」
先に立ち上がった彼に抱き起こされるようにして立たされると、そのまま手を繋いで給湯器のボタンを押しに行く。
「なんだか良いですね」と満足そうに笑う彼を見ていたら、このまま時間が止まってしまえば良いのにと、そんなくだらないことを考えた。
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