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第34話
「気になっていた、だなんて」
「この人の人生に入れてもらいたいだなんて、誰にでも思うことじゃあないですからね」
「まぁ、そうだが」
「それに、今でも無防備なあの笑顔は見られていないですが、あなたの色んな表情が見られるようになって、俺はそれだけで充分嬉しいんですよ」
先程お茶を飲んでから、コップをテーブルに置くタイミングを失ったままの私を彼は笑いながら、そっとそれを取り上げ代わりに置いてくれる。
自由になった私の手を優しく包み込み、それから視線を合わせた。
「隆義 さん」
「な、に……」
「今日も、可愛いです」
さすがに分かる。この瞳で見つめられ、握られた手は熱く、優しく握っているようで私のことを離す気がないことが、この先何を意味するのか。
私が振り払い、今日はそんなつもりはなかったと断らなければ、彼はこのまま私に顔を近づけ、この唇を奪うだろう。
「弘明 くん」
「ん?」
「その……えっと、」
「なぁに?」
「……私のどこが、可愛い……ん、だ……?」
名前を呼んだ私への彼の返事が、あまりにも近い距離で覗き込まれてなされるものだから、瞳の中で揺れる光も、先が柔らかくカールした長い睫毛も、髪から香る甘い香りも、すーっと通った鼻筋にも、心地良い低音が紡がれる唇も、全てが、はっきりと感じられて、それに抱いた感情をどのように処理すれば良いのか分からなかった。
私の可愛いところ、そのようなことが聞きたかったんじゃあない。その言葉を言うつもりもなかった。
「そういうところが、たまらなく可愛いんですよ。隆義 さん、俺、ごめんなさい。今日はここまでするつもりなかったのに」
抵抗する間もなく、ソファへと押し倒される。胸元を押し返そうとした手は、その前に掴まり行き場を失ってしまう。
ゆっくりと近づいてくる彼の顔から視線を逸らせば、首筋に吸いつかれ、熱がそこに集中していくのを感じる。唇を離した彼が満足げに微笑んでいるのを見て、赤い痕を付けられたのだと分かった。
彼のように柔らかくもない私の髪を指先でとくように撫でながら、温かな唇は首筋を這い私の頬へと辿り着く。
「この髭……」
「あっ、剃っていなくて。痛い……?」
「ふふ、ちょっと痛いです。でもその痛みのおかげで、ああ隆義 さんにキスしているんだなと実感できるから、その分興奮しますけどね」
「興奮って……」
「ね? ほら」
手首を掴まれ、彼の勃ち上がったそれへと手を押しつけられる。厚手の服越しでもはっきりと分かるその形に、次第に自身のものにも熱が集まっていくのが分かった。
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