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第39話
「隆義 さん、できたよ」
また眠ってしまっていたようで、頭を撫でられ、彼に優しく起こされる。大袈裟な彼は、ベッドから起き上がる私の背中を丁寧に支えてくれる。
「そこまでしなくても大丈夫なのに。おじいちゃんみたいだ」
「何を言っているんですか。全部甘えてほしいから、やりたくてやっているんですよ」
「甘えてほしいって……」
「いいから、いいから。隆義 さん、どうしますか? ここで食べる? それともリビングに行く?」
「リビングに行く……」
「それじゃあ、」
「え、……え!?」
身体がふわりと宙に浮く。
所謂お姫様抱っこというものをされていると気がつくのに数秒かかった。あまりにもしっかり抱かれているせいで抵抗もしにくい上に、体力の落ちている今、それができるわけもない。
「楽しみすぎじゃあないか? 私が弱っているからと言って、こんなこと」
「だってこのために鍛えているんですもん」
「嘘つけ」
このまま大人しくしていてくださいね、と耳元で囁かれキスをされた。優しく響いたそのリップ音に、さらに大人しくするしかなくなってしまう。
「はい、着きましたよ」
ゆっくりと下され、ソファがいつもと違う沈み方をする。時間をかけて座ると、こういう感覚になるのだな。
「何から何までありがとう」
「お粥、食べさせますか?」
「……さすがにそれは大丈夫だ」
「え〜。じゃあ俺が熱を出した時はやってくださいね」
「はいはい」
さっきまであまり食欲がなかったが、湯気が立ち、見るだけで卵がふわりとしているのが分かるそのお粥を前にして、食欲が出てきたように思う。
弘明 くんは、料理が上手だな。こういうところまでも完璧すぎる。
「いただきます」
差し出されたスプーンを受け取り、お粥を掬うと、素朴だけれどおいしそうな匂いが漂う。
「良い匂いだ」と伝えると、彼が照れたように笑った。「おいしいと良いけれど」と、私の反応を待っている。
熱いからと何度か息を吹きかけ、それからゆっくりと口へ運んだ。
「ん……! おいしい!」
「本当ですか? 良かった〜! お粥作ることなかなかないからちょっと緊張していました」
「私も誰かに作ってもらったのは何十年振りかもしれない。おいしいよ。ありがとう」
ふーっと冷ましながら、次々に口に運ぶ。
「お代わりあるから、食べるなら言ってくださいね」
「弘明 くんは? 余っているなら君も一緒に食べないか?」
「隆義 さん、もういらないの?」
「足りなかったら、買ってきてくれたゼリーでも食べようかな」
じゃあ……と、彼が残ったお粥を茶碗によそい、私の隣に座る。
その瞬間、チャイム音がした。
「あれ? 誰だろう。何も頼んでいないんだが」
「あ、俺が見てきます。隆義 さん、座って残りを食べてて」
その言葉に甘え、彼の背を見つめながらお粥を口に運ぶ。
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