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第40話
「……え?」
「あれ……? 弘 ……なんとか君じゃあないですか。先生は?」
「……えっと、棗 、さん?」
「そうです。棗 さんです。先生に連絡しているのに繋がらないから何かあったかもって思って……」
呑気にお粥を食べていたけれど、聞こえる声に立ち上がりのそのそと玄関に向かえば、両手に袋を持っている棗 さんが立っていた。
慌てて確認すると、連絡が何件も入っている。
「ごめん、連絡をくれているのに気づかなかったみたいだ」
「見ていないだけかなと思ったんですけど、もしかして今度こそ本当に体調が悪かったらと思って、いつもの癖で来ちゃいました。先生、どうされたんですか……?」
「ただの風邪だよ。棗 さんには、こういう心配をかけてばかりだね」
「いや、全然良いんですよ! でも、そっか、もう私が来なくても良い時があるんですね」
とりあえず置かせて欲しいと、棗 さんが玄関先に袋を置く。重かっただろうに、飲み物やゼリーがたくさん入っていた。
「棗 さん、少し上がってって」
「いや、でも先生、熱冷ましのシート貼っているくらいだから熱がすごいんでしょう? ゆっくりしててください。今日連絡したのは新しいお仕事のことについてだったんですが、また後日連絡します。急ぎのものではないから。まずはしっかり体調を良くしていただいて」
「本当にすまない」
「なあに落ち込んでいるんですか、全然良いんですよ。私が勝手にしたことだから! でも先生、もう私以外にも何かあった時にそばにいてくれる人がいるってことですもんね。なんだか寂しいけれど、嬉しいなって思います。でも変わらず私も頼ってくださいね!」
相変わらず一気に言いたいことをハキハキと伝える棗 さんの話を、彼が目を丸くしながら聞いている。
棗 さんの発言は、いつも一回の文字数が多いんだよね。一見おとなしそうに見えるから、そのギャップに驚いてしまう人が多い。
その光景を見ながら、玄関先で弘明 くんと二人で棗 さんに向き合っているのは不思議なことだと、そんなことを思った。
「まぁでも先生がシートを貼っているレアなお姿を見ることができてハッピーになれましたよ。ぷっ! 可愛いから写真に残しておきますね。先生こっち向いて! はい、チーズ!」
「やめなさい!」
止める間もなく素早くカメラを起動した彼女が私の姿を写真におさめた。手で顔を隠してみたけれど、きっと間に合わずにブレて、白目を剥いたような変な顔で写っていることだろう。
見せてはくれないが、ゲラゲラ笑う彼女を見ていると、私の予想は外れていないように思う。
そうして色々なことに満足したのか、それじゃあ今日はこれで、と彼女が帰ろうとした時、弘明 くんが「連絡先を交換しませんか?」と声をかけた。
今度は棗 さんが目を丸くして立ち止まる。
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