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第41話
「私と?」
「はい。こういう時に俺が来ているって分かれば棗 さんが心配し続けたり、わざわざ来る必要もなくなるし、反対に俺が隆義 さんと連絡が繋がらなかった時とか、何か心配なことがあった時に棗 さんに聞けるかなって」
彼女に負けないくらいに、弘明 くんが一気に話しかけている。緊張しているのか珍しく早口だ。
「いきなり知らない人と連絡先を交換するのは抵抗があるかもしれませんが、……どうでしょうか?」
「なるほど、それは良いですね! そうしましょう!」
「良かった! 俺、取ってくるんで待っててください!」
弘明 くんが小走りでリビングへと戻り、自分のを急いで持って来ると、彼女の正面に立ち、QRコードを表示して見せる。
「あ、じゃあ私がこれを読み込みますね」
「お願いします。原沢弘明 って名前のです」
読み込んだものがどのように表示されるかもほとんど知らない私は、少しだけ近づいて画面を一緒に見るものの、よく分からない。
「フルネーム派なんですね? てか、先生と同じ名字!? 原沢 さんなんですね。じゃあ紛らわしいし、私も弘明 くんって呼ぼうっと」
「全然良いですよ。じゃあ俺は先生と同じで棗 さんって呼びます。あ、棗 さん、このアイコンのキャラ好きなんですか?」
弘明 くんが私の名前を知りたがり、隆義 さんと呼ぶきっかけになった時と同じ理由で、彼女が彼の名前を呼ぶ。
名前の呼び方ひとつで動揺していた私とは大違いな、自然なやりとり。すぐに打ち解け、二人とも笑顔を見せている。
「このキャラ好きなんですよ。なんだか先生に似てません? ちなみにこのスタンプも持っているんです、ほら」
「本当だ、可愛い。確かによく見ているとじわじわ隆義 さんに似てきた感じがします」
「でしょ? 弘明 くん、なんだか良い子なのがすごい伝わりますね! ね? 先生!」
「あ、ああ……」
二人のやりとりなんてたった数分の出来事だというのに、体調が悪いのもあってか数十分くらいかかったように思えた。
会話のテンポも、私がインストールしていないアプリでのやりとりの話も、スタンプがどうだとかいう話も、何より歳がそこまで離れていない男女の二人が並んだ姿が、私には一番堪えたかもしれない。
笑い合う二人が、思わず彼の肩を叩く彼女の姿が、あまりにも自然に見えた。私が彼の横に並んだ姿と比較しようがない。
気づかれないほどの小さなため息をつき、そっと壁にもたれかかる。誰も悪くない上に、ふたりとも私のためにやってくれていることなのに、こんなことを考えてしまう自分が情けなくてたまらない。
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