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第43話
そんなやりとりをしながら、彼が「棗 さんが買ってきてくれたもの、冷蔵庫に入れときますね」と玄関から袋を持ってきてくれた。
「あ……」
「ん? どうかした?」
袋の中を見たままで彼が固まる。何となく立ち上がり隣に並んで見れば、袋の中にみかんのゼリーやヨーグルトがたくさん入っていた。
私の好きなものばかりだが、それがどうかしたのだろうか?
「弘明 くん……?」
「棗 さん、たくさん買ってきてくれていますね。しかもゼリーもヨーグルトもみかんのものばかり。あなたの好みをよく知っている……。いつもこんなふうに彼女が持ってきてくれるんですか?」
「いつも、というかここ最近かな。私も元々は体調を崩すことがあまりないからね」
「それでも、こうして連絡がつかないからというだけですぐに駆けつけられる関係性って良いですね。隆義 さんの好みも把握しているし。本当にあなたにとって唯一の友人なんですね。……なんだか嫉妬しちゃうな」
彼は私のほうを向くことも、視線を合わせることもなく、淡々とそんなことを言う。
怒っている? どうして嫉妬?
彼女と恋愛的にどうこうだなんて、そんなことはあり得ないと、弘明 くんも分かっているはずなのに。
それにさっきまで、二人で楽しく話していたじゃあないか。
「……そんなこと言いながら、ちゃっかり連絡先を交換していたくせに」
ふと、嫌味のような言葉がこぼれた。私と彼女に嫉妬すると言うけれど、私からすれば、彼と棗 さんのほうが話が合うようだったし、年齢差もそこまでない男女で、何も不自然なことがなかった。
一方で私と彼女は、仕事仲間で友人ではあるけれど、それだけでしかない。私から彼女に対しての恋愛的な好意だけではなく、彼女から私に対してのそれも、何もないと見ていて分かるはずだろう?
どうしてたったそれだけのことで、嫉妬するなどと言うのだろうか。
君たちのほうが、君たちのほうがよっぽど……。
元々合っていない視線を、彼から大きく逸らす。涙が出ているわけでもないが、今見つめられたら自分がどんな反応をしてしまうか分からない。
彼の私に対する言動を何も信じようとせず、どこか諦め、それ以上踏みこませないようにととどまっているのは私自身だというのに、この程度のことで勝手に傷つき、期待を裏切られたような気持ちになるだなんて、なんて馬鹿げているのだろう。
「……っ、」
自分が発した嫌な言葉の撤回もフォローもできず、ただただ無言でその場にいると、体温がさらに上がってくるように感じる。
この場から逃げたいし、ベッドへと潜りたい。今、彼とやりとりをしたくない。
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