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第44話
熱が上がってきたようだから、と彼の顔を見ることもなくそう言い、寝室へと向かおうとすれば、腕を掴まれそれを阻止された。
私の腕を掴む彼の手には力が込められており、指先が食い込んできて痛いくらいだ。
「…転どうして分からないんです?」
「え?」
「連絡先交換だって、そんなの、今日俺が隆義 さんにしたことを、俺の知らないところで棗 さんにやってほしくないからですよ。あなたが棗 さんと仲が良いとか、彼女が素敵な人だとか、そういうことは一旦無しにして、それでも俺以外にあなたが弱っているところを見せてほしくないんです。そういう気持ちだけですよ」
彼の言葉で私の気持ちが少し緩んだことに気づいたのか、すっと引き寄せられ、そのまま抱きしめられた。
彼の胸元に顔を押し付けられるような形でそれがなされているから、私の顔も見られることはないし、彼の顔も見ることができない。
自分の顔は見られたくないけれど、彼の顔は見たいと、そんな矛盾した気持ちになった。
こんなことを言ったら、さすがに怒られてしまうだろうか。
「隆義 さん」
「……ん?」
「まさかとは思いますが、俺が棗 さんと連絡先を交換したことに嫉妬してくれたんですか?」
「……なっ、」
「まさか、本当に?」
「……いや、そういうわけじゃあ、」
「ふっ、そっか。そうなんですね」
熱いね、と言いながらそっと首筋に口付けられ、後頭部を優しく指先で撫でられる。
そのせいでまた体温が上がり、私の周りの空気まで熱くなっていくようだ。
彼に「耳まで真っ赤なのはどうして?」と囁かれ、「見ないでくれ」と返すも、腕の中でそれ以上の抵抗ができるわけでもない。
そういう私の心の内も彼はお見通しなのだろう。頭を撫でる手がさらに優しくなったように感じる。
私はそれまでだらりとしていた手を、彼の背中へと回してみた。彼は少しだけ驚き、それから同じようにして私の背へと手を回す。
「隆義 さんって、本当に可愛い人ですね。弱ってなかったら、今日もあなたに何をしていたか分かんないですよ。そろそろ色んなことが我慢できなくなりそうだ。元気になったら覚悟しててください」
「……何の覚悟を」
「色んなことのですよ」
「なんだそれ」
私を抱きしめていた彼の手が緩み、今度は私の頬を包み込む。やっと見えた彼は、眉を垂らして私を見ていた。
「隆義 さん、何かあった時はまず俺を頼ってくださいね。約束ですよ。俺は、一番に駆けつけられる人になりたいんです」
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