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第48話
最寄りの駅まで歩き、そこから電車に乗った。栄えている場所から離れたところにマンションを借りたから、電車で三十分ほどかかってしまう。
しばらく揺られながら、乗車や下車する人々をぼんやりと眺めた。
「ねぇねぇ、お揃いの服を買おうよ」
「良いね。それなら俺、ここのブランドがいいなって候補があるんだ」
「え? 本当? じゃあそこ行こうよ」
私の目の前に座った男女が、腕を組みながらそんなことを話す。恋人同士なのだろう、とても幸せそうだ。
男性の膝の上で彼女は手を重ね、指を絡めている。見つめ合う視線には、お互いを思い合う気持ちが透けて見える。
私も弘明 くんと、いつかああいう雰囲気で過ごせる日が来るのだろうか。
人前でこうして触れ合いたいわけではないが、本心では何を考えているのだろうと気にすることもなければ、私の気持ちや意図がどのように伝わっているのかと落ち着かなくなることもないような、そういうやりとりには憧れてしまう。
「そんな夢みたいな話、あるわけないのに」
彼に、何かあった時に駆けつけられる存在になりたいと言われたり、はっきりとした言葉では伝えられていないが、好意も感じている。
私の人生に入れてもらいたいという言葉も、いつまでもはっきりと覚えているくらいだ。
それでもその好意が、どういう意味なのかは分からない。いくら考えたところで私の理想が含まれてしまうだけ。
所謂セックスフレンドか? と考えてみても、最後までしていない私たちに果たしてそれが当てはまるのだろうか。
それに、自宅に来ることはあっても毎回身体に触れ合っているわけではなく、ただテレビを見てのんびり過ごす日だってある。
「そんな関係の先に、何があるのか」
同じような日々の繰り返しを重ねていくだけ? 何か名前がつくような関係になってしまっても、それが永遠に続くわけではないのだろうし。
遅かれ早かれ、どこかで終わってしまう関係なのは間違いないだろう。
彼は私に会いに来てくれたり、連絡をくれているのだから、今はそれ以上望むべきではないことは確かだ。
何かを望んでしまえば、それこそ終わりが来てしまう。
身体ごと少しだけ捻り、外の景色を眺める。風は少し強そうだが、天気は雲もほどよくあり、散歩には良さそうだ。
せっかくだから、出かけたついでに自分に似合う服でも買ってみようか。
何も望まなくても、彼といる間に少しでも自分に自信が持てたら良い。長く続かなくても、その瞬間、これまでよりも顔を上げていられるように。
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