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第50話
「それで、最近はどうなんですか? 彼との関係性は。ただの友人って感じはしませんでしたけどね。私以外の人とほとんど関わりを持とうとしない先生が、出会ったばかり……ではないのかもしれないけれど、あんなに気を許して、熱冷ましのシートまで貼ってもらっちゃって、看病されている姿を見たらさすがの私でも何か察しますよ」
この間の写真を見ますか? と揶揄ったような表情で鞄の中から携帯を取り出し、画面を見せようとする。
やめてくれと焦って止めると、最初から本気でそうするつもりがなかったのだろう、棗 さんはニヤリと笑った。
「そういうことばかりするんだから」
「だって先生が可愛いんですもん」
「こんなおじさんが可愛いだなんて。君の目は腐っているんじゃあないか」
「あらやだ。小説家なのにそんな表現しかできないんです? それに可愛いだなんて彼にもたくさん言われているでしょうに!」
当たり前のようにそんなことを口にする彼女に、先ほど声をかけられて驚いた以上の反応を返すと、「そんな大袈裟な」と、また笑われる。
彼と私の関係性について、何の迷いもなく友人以上であると決めつけているが、仮にそうだとして、彼女はどうしてその事実をさらりと受け入れられるのだろう?
「いくら私が棗 さんと同じように彼に気を許していたとして、それがなぜ友人以上の関係だと判断する要素になるんだ?」
「私にも気を許してくれているんだ?」
「だからもう、そういうのは良いから」
「はいはーい。最初は先生の悩みについて友人が少ないからこそ悩むのかなと思っていましたけど、弘明 くんが先生のためだけに私なんかと連絡先を交換して牽制したりとかしている姿を見たら、あれ? 違うなあと」
「牽制って。君は彼のあの行動をそう捉えたのか?」
「どう見てもそうでしょ? 先生の反応も可愛かったですけどね。まあそんなことは一旦置いといて、せっかくだからどこかでお茶でもしません? どうせ急ぎの用はないんでしょ?」
お勧めのカフェがいくつかあるからと、棗 さんに腕を引っ張られる。私と彼のことに余程興味があるのか、長い時間話を聞くつもりのようだ。
このモードに入ってしまうと、彼女が止まらなくなることはよく知っている。
自分で歩くから大丈夫だと何度か伝えたところでやっと腕を解放してもらい、少し早歩きの彼女の隣を歩いた。
「先生は珈琲が良いです? それとも何かパフェとか甘いものをしっかり食べたいですか?」
「お腹はそこまで空いていないから珈琲くらいで大丈夫だ」
「じゃあ、あそこの緑色の看板見えます? あのお店、珈琲がおいしいのでそこにしましょう。珈琲だけじゃあなくて、紅茶も充実しているし、最近はパンケーキもあるらしいんです。ふわふわのではなくて、薄めのもので、たっぷりバターが乗っているやつです。SNSでよく見かけるから食べてみたくて」
彼女に言われるがまま歩き続け、緑色の看板が目印の、雰囲気の良いカフェへと入った。
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