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第51話
店内に入ると、甘い香りが漂っていた。
けれど思っていたよりも人が多く、人混みに不慣れな私は少し落ち着かない。
女性客が多く、噂のパンケーキがやたらと視界に入ってきた。
「しっとりとお話をする感じではないですけど、ここで良いです?」
「大丈夫だよ」
気にかけてくれている棗 さんにそう返事をしたところで、穏やかそうや男性の店員さんに「二名様ですか?」と声をかけられる。
頷けばそのまま二階へと案内され、狭い階段を慎重に上がると、一階よりも少し開けた空間になっていた。
幸いまだ人もそこまで多くなく、壁側のソファ席を案内される。
四人掛けの席で、さらには観葉植物やちょっとした仕切りのおかげで半個室のような作りになっていた。
「ちょっと微妙かもと思いましたがこの席で良かったです。ゆっくり話せそうですね。この窓から景色も見えるし」
「そうだね。ゆっくりって、何を聞かれるのかと思うと、私は少し怖いんだが」
「まあまあ、まずはメニューでも見ましょう」
デザートは写真が載っており、あのパンケーキは最初のページで紹介されていた。彼女はすぐに食いつき、「私はこれを絶対に食べます!」と鼻息を荒くしている。
私はこのお店のブレンド珈琲に決め、注文をする。先程の男性店員が、パンケーキを楽しみにしている棗 さんの様子を見ながら微笑んだ。
「ちょっと私、恥ずかしかったです?」
「ん? いいや、それが君の良さでもあるから。パンケーキ楽しみだね」
「へへ、私の良さですか。嬉しいです! って、そんなことよりも、ですよ。先生の話の続きをしなくちゃ」
テーブルに肘をつき、両手で頬を支えながら、上目遣いで棗 さんがそう言う。本当に切り替えが早い。
「いきなりだね」
「私はいつもいきなりですよ。ってだから、そんなことよりも、さっきの友人以上の関係だと判断した要素についてですけど、一番は彼の視線を見ていれば分かります。先生のこと大切にしているんだなあって」
切り替えの早さに戸惑う暇もなく、棗 さんが言葉を続ける。いつまでも気まずさを感じている場合ではないからと、話を聞いてみることにした。
「視線?」
「男性って視線に愛情が出やすいなと思うのは私だけですか? 先生も視線に出ていましたけども」
「私も……?」
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