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第53話
「そうは言っても、自信は簡単に持てるものではないよ。私の性格を知っているだろう? これでも少し前向きに考えようとしてはいるんだよ」
テーブルの上で握っている手に力がこもる。喋りすぎで喉が渇き、コップの半分くらいの量を一気に流し込んだ。
棗 さんは、そんな私を待つことなく、相変わらずの早さで話し続ける。
「そんなこと言ったって、そもそも自信を持つ気がないですよね? 隣に並んだ時の違和感だか何だか知りませんけど、そういうことばかりに気を取られて、他人から見てどうだとか、私なんかが……とか気にしていたら、本当に自分のほしいもの、必要なものはなくなっていきますよ。いつか終わるからとか色々悩むんでしょうが、何も踏み出さないで終わりをただ待つだなんて、そんな勿体無いこと私だったらしないですけどね」
何か言い返したかったが、その通り過ぎて言葉が出てこなかった。今は何を言っても答えにならない気がする。
怒ったような表情と口調ではなくて、棗 さんは本当に私に対して怒っているみたいだ。
いつも私のために手を尽くしてくれているのに、これまで私に対して伝えてきてくれたことが、私の中で積み上がっていないと分かったからだろう。
「せっかく最近は前向きな印象もあったというのに、自分の内に留めている間は良くても、こうして私に触れられると、すぐに保身に走りますよね。どうせ他人には認めてもらえないと決めつけているから、せめて自分だけは自分を守らなきゃとでも思うんですか?」
何も言えないまま彼女の目を見つめると、彼女は眉を垂らしながら私を見つめ返す。
ああ、私に怒っているんじゃあない。伝わっていないことに悲しんでいるんだ。
「私は先生に幸せになってほしいって思っているんです。先生のこと大好きなんですよ。あなたが守りたいと思うものは、私にとっても大切だし、守りたいものでもあるんです。あまり怖がらないでくださいよ」
流石に一気に話し続け過ぎたと棗 さんが水を飲む。私のことなのに、自分のこと以上に熱くなっている彼女を見て申し訳なくなった。
「ほら私って思ったことずけずけ言うから関係作るの難しいじゃあないですか。今もあなたの気持ちに共感せずに言いたいこと言っちゃっているし。それでも先生は、こんな私と仕事抜きにしても関わってくださるから、私の中で先生はずっと特別なんです。それに先生はとても魅力的ですよ。ご自身の魅力を今すぐに分からなくても良いです。でも私が先生のことを魅力的だと思っているという事実だけでも覚えておいてくださいね。親友からのお願いですよ」
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