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第54話
タイミングが良いのか悪いのか、注文していた珈琲やパンケーキが運ばれてきた。
SNSで話題になっているのも頷けるその見た目に、彼女の目が輝く。そんな彼女を見て、運んできてくれた店員さんが優しく微笑んだ。
「ねぇ先生。見てください!」
熱いうちにとすぐにシロップをかけ、パンケーキにそれが染みていく様子を嬉しそうに見ている。そんな彼女を見ていると私まで嬉しく思えた。
「おいしそう! 頼んでみて良かった。先生にも分けてあげますね!」
言いたいことを全て伝えたらお腹が空いたと、棗 さんが笑い、それから大きな一口でパンケーキを頬張る。
うっとりとして食べ続ける彼女に私も笑い返し、珈琲を啜った。
「そういえば、今度はいつ会うんですか?」
「今月末に出かける予定があるけれど、彼が何も教えてくれないから、詳しいことはまだ」
「えっ、良いじゃあないですか! サプライズでもしてくれるんですかね? それなら、その日に着て行く服を一緒に選びましょう。先生に似合うとびきりの服、探すのお手伝いします」
「そんなに張り切った感じを出されると、恥ずかしいんだが」
テーブルに置いてあったケースから新しいフォークを取り出し、パンケーキのシロップが染みている部分を切り分けると、彼女はそれを私の口元へと運んだ。
唇に押しつけ、無理やり口を開かせてケーキを捩じ込んだ棗 さんの行動力に感動すらする。
今日会ってから今の今まで、終始彼女のペースに巻き込まれている。やはり台風のような人かもしれない。
「ちょっとくらい先生も張り切りましょう! どうせ言葉で全て伝えられないんだから、見た目だけでもアピールしていきましょうよ。私に任せてください!」
自分のことのように張り切る彼女に「お手柔らかに」と伝えると、わざとらしくニヤリと笑われた。
「食べ終わって少ししたら、早速行きましょうね! 彼の服装のイメージを考えてみても、先生が今日みたいにあまりカッチリとし過ぎても良くないかもしれないから、ラフな感じで探しましょうね。先生が年齢に拘るのなら、少しでも若く見えるようにしてみます? 髪も切って髭も剃っている今の感じだと、服装の渋さを除けば、実年齢より確実に片手分は若く見えますよ」
「ラフな感じ? 若く見えるように? 難しくないか?」
「いいえ! もう頭の中でイメージができています!」
私のことでここまで楽しくなれるのかというほどにご機嫌な彼女に降参する。「何でもいい、君に任せるから」と言えば、残り一口になったパンケーキを見せつけるように口に含んだ。
私より大人びた考えをすることが多い彼女の、こういう子どもっぽさを見ると少し安心感すらある。
「じゃあ、行こうか」
買い物に付き合わせるお礼だと、お会計を済ませれば、ますます彼女のやる気が漲るようで、お店から出る際には軽くスキップをしていた。
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