64 / 72
第64話
「最初からこう言いたかったけど、怖くてできなかった。ごめんね。あなたが拒否しないことにつけこんだことも多かった。ごめんなさい。もう俺も気持ちを誤魔化したりしない、これからはあなたにこれでもかと気持ちを伝えていきたい。それが許される関係になりたい」
「うっ、あ、……っふ、う」
「隆義 さん、受け入れてくれる?」
彼がこうして気持ちを伝えてくれ、叶わない期待だと決めつけていたことが現実になり、私もそれに対する返事をしなければならないと思うのに、どのような言葉が正しいのかも分からず、私はぐちゃぐちゃの顔のままで何度も何度も頷いた。
好きな気持ちを認め、そしてそれを抱き続けることを、伝えることを許される関係になれたことが嬉しい。夢のようだ。
「もう泣かないで。ね?」
彼は、赤くなり、ひりひりとする目元に柔らかなキスを落とすと、私を再び優しく抱きしめる。
その好意を素直に受け止めて良いと、私も同じように気持ちを返して良いのだと、改めて自覚した途端に彼との身体の境界線が分からないほどにしっくりくる感覚が溢れ出した。
されていることはこれまでと変わらないのに、もう何の壁も作らなくて良いことが、ただただ嬉しい。
あれだけ止められなかった涙もいつのまにか引いており、乾いたところに痛みが残るけれど、これが現実だと教えてくれるようだ。
「隆義 さん、落ち着きました?」
ちゅっと額にキスをした彼が、首を傾けて私を見つめる。
その向けられた眼差しから感じる好意も、私の勝手な期待の押し付けでもなんでもなく事実なのだと思うと、笑みが溢れた。
「隆義 さん。本当は今すぐにでもあなたのことを抱きたいんですけど」
「えっ……」
「今まで散々好き勝手したくせにって思われるかもしれないけれど、それでも初めては大切にしたいので、隆義 さんの気持ちの準備ができてからにします」
「う……」
「その代わりと言ってはなんですけど、今日はとても特別な日だから、あなたと一緒に朝を迎えたいです。泊まらせてもらっても良いですか?」
そう言えばと、彼が以前に言っていた特別な時に泊まりたいとの発言を思い出す。
まさか、この日のことを言っていたのだろうか?
「そういうことだったの?」
「ん? そういうことって?」
「特別な日に泊まりたいって言っていたのは、今日のことだったのか? つまり、お付き合いする日のこと……」
「そういうことですよ。お付き合いする日のことです。その日にお泊まりだなんて発想は、子どもっぽいですか? 呆れちゃう?」
「いや、そんなことはないんだが」
彼の発言ばかりに気を取られていたせいで、特に意識することもなく自らの口で「お付き合い」という言葉を出してしまったことに動揺する。
幸いにも彼に指摘されることなく、流してもらえたようだ。
「……泊まるのは全然。私からもお願いしたいくらいだ」
「やった!」
けれど、尻尾が見えそうなほど喜んだ彼が、口角を上げながら「お付き合い記念日ですもんね」などと言うものだから、あまりの恥ずかしさに彼の頭を叩いた。
ともだちにシェアしよう!