65 / 72
第65話
さんざん泣いてようやく落ち着いたと思ったら、途端にお腹が空いてきて、ふたりでピザを取ることにした。
滅多に食べる機会のないピザは贅沢なような気がしたが、「今日はお付き合い記念日ですよ? ピザじゃあ足りないくらいです」と、彼が笑う。
私に叩かれたくてもう一度そんなことを言うのかと睨めば、「その顔も可愛すぎです」と、冗談とは思えない視線で見つめるものだから、無視をしてピザを口いっぱいに詰め込んだ。
お腹いっぱいになると、大して広くもないお風呂に一緒に入り、上がってからは弘明 くんが髪まで乾かしてくれた。
熱くない? と確認をされ、丁寧に風を当ててもらいながら、その初めての行為に幸せを噛み締める。
「誰かに髪を乾かしてもらうだなんて、子どもの時以来だ」
「どうですか? 俺にされるのは」
「……嬉しい」
「待って、可愛い」
「可愛いって」
「俺、今日我慢して眠れるのかな……」
時々、首筋や耳にキスをするちょっかいをかけながら私の髪を乾かし終えると、彼がドライヤーを「ん、」と渡してきた。
彼がしてくれたように丁寧に髪を乾かしたけれど、終わった後に拗ねた顔をしている。何か不手際があったのかと思えば、「キスがなかったのが残念でした」とそれだけのことだったようで、「それはいきなりハードルが高いよ」と返すと、「これくらいはしてもらわないと」と少し深めのキスをされた。
「俺、本当に眠れないかも」
「そんなことするから」
ああだこうだ言いながら寝室に向かえば、大丈夫だろうと思っていたセミダブルのベッドが小さく見えてきた。それでもと思い、ふたりで寝てみれば、やはり男ふたりではやや狭めだった。
それでもその狭さが良いんだと彼が笑い、「ずっとこうしたかった」と私を抱きしめる。
すっぽりと彼の腕におさまりながら、彼が着ている服から私と同じ洗剤の匂いがすることにドキドキしていると、彼からは私のと比にならないほどの心音が聞こえてきた。
「やっぱりドキドキして、眠れないかも」
「確かに……すごい音だ」
「なんだか恥ずかしいや。俺だけ? 隆義 さんはドキドキしないの?」
私を抱きしめていた体勢を変え、今度は彼が私の胸へと擦り寄る。
「あはっ、隆義 さんのもすごかった!」
「……っ、」
「可愛い。ねぇ隆義 さん、大好きですよ。寝ている間に寝返りとかでどうせ動くからこのままの体勢で眠ることなんてできないけれど、でももし俺より早くに目覚めたら、俺にぴったりとくっつき直してくれる?」
「どうして?」
「そうしたら今日のこれが、夢じゃないって起きた瞬間に分かるから」
お願いですよと、上目遣いで私を見た彼が、そのまま唇を押し当てた。
「こんなに幸せなことって他にある? って思うけれど、きっと明日の朝起きて、あなたと抱き合いながら迎える朝のほうが幸せだし、これからもずっとその幸せを更新していけたら良いですね」
大好きですと耳元で囁き、彼が目を瞑る。同じように言葉で返すことはできなかったけれど、彼の背に手を回したことを返事として、私も目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!