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第69話
こういう性格なこともあり、心から明るくなれるような話を書くことはしないものの、誰かにとっての些細な救いになったり、今まで見落としてきたものに気づけるような話になれば良いと、そう思って書いてきた。
そんな願いを持ちつつも、自分自身が現実世界でそれを意識できているかはまた別ものだけれど。
「そんな感想を持っている人に初めて出会ったよ」
「え? 本当? それがこの人のお話の良さだと俺は思うけどなぁ。その中でもね、この“あなたのおはようを今日も僕に”っていうお話は、なんだか隆義 さんみたいで好きなんです。俺、そういうのに惹かれやすいのかも」
うっかり誰目線なのか分からない返しをしてしまったが、彼は今、高原 サワヨシについて語りたい気持ちが大きいのか、私の言葉にあまり引っかかりを持っていないようだった。
感想をいただくことはあるものの、読者の方と話ができる場を設けたことはないから、こうして直接伝えてもらえることは初めてだし、その初めてが彼だという事実がたまらなく嬉しい。
「本を見てもいいですか?」
「構わないが……」
部屋の中だというのに手を繋いできた彼に引かれながら、書斎にしている部屋に向かう。自分の作品を綺麗に並べて置くような性格ではないこともあり、バラバラに積み上げられた本の中から二人で探した。
すぐに見つけますよ、との言葉通り、彼は私よりも先に見つけだし、軽く埃を払った。
「前に猫と触れ合っているあなたを見て、その無防備な笑顔に惚れたと言ったけれど、そういう胸を掴むようなそんな魅力がこのお話にもあるんだよね」
「魅力……?」
「何かすごく衝撃的なものではなく、じんわり温かに胸に広がる感じの魅力です。それでね、このお話は、サワヨシさんの書く小説の中で、唯一素朴な優しい日常にあふれた話なんですよ。珍しく恋愛要素が含まれているけれど、でも恋愛はそこまで目立ったお話じゃあなくて、ただ何気ない日常を切り取っていて、でもその日常こそが幸せなんだろうなと、そう感じさせられるような。あなたとこうして朝を迎えられて、あの人が書いた世界観ってこんな感じかなって思いました」
ほら、このあたりの、と言いながら、彼が好きな一節を紹介してくれる。それを書いたのは私なのにと不思議な気持ちになるが、初めてのその感覚は決して嫌なものではなく、むしろ涙として込み上げてきそうな、けれど踊り出したくなるような、そういった感覚だった。
黙っていようかと思っていたが、ここまで言われてしまうと、それが私だと言いたくなってきてしまう。胸の内にこの感情を抱えていられない。
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