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3-1-いざ娼館へ

「ディナイ様だわ!」 「久し振り過ぎてまた恋しそう!」 「勇者様ぁぁあ!」  白バラの庭園に囲まれた、洒落た佇まいの三階建ての洋館。  吹き抜けになっている入り口の玄関ホール。踏み入れたばかりのディナイを娼館に従事する女性三人がわっと取り囲んだ。  下着にも似た露出度の高い衣装に圧倒されて、ステュは華やかな輪からポイッと弾き出されてしまう。 「あれは新月の勇者か」 「ここの常連らしいぞ」  所在なさそうにしていたステュは、後ろから聞こえてきた会話が気になった。さり気ない風を装って振り返り、仮面舞踏会の参加者のような二人組を目の当たりにすると、あわや吹き出しそうになった。  アイマスクで目元を隠した正装の男性二人は、繊細なグラス片手に会話を続ける。 「どこにも属さないSSランクの最強フリーランス勇者だとか」 「俗に言う一匹狼か」 「都から都へ、国から国へ、国家認定の勇者よりも安価で、時には無償で魔物を退治しているとか」  勇者業について、ステュはディナイからざっと教えてもらっていた。直近の定められた期間中に挙げた功績で世界勇者連盟がランク付けしており、ディナイのように単身で行動する者もいれば、パーティを組んで団体で動く者もいる。魔物討伐、前人未到の秘境調査から要人の警護まで、業務内容は幅広いそうだ。 「あのモテっぷり、デキる男の証だな」 「羨ましい」  ディナイのことをベタ褒めしながら、しとやかに賑わう大広間へ二人組は移動していった。  開け放たれた扉の向こう、天井には豪奢なシャンデリアが吊り下げられている。が、中は全体的に薄暗い。深いドレープを描くカーテンが、仕切りとして至るところに垂れ下がっていた。  各スペースには、ゆったりとした長椅子が配置されている。先程の二人組のようにアイマスクや仮面をつけた男達相手に、ディナイに群がった女性と似たり寄ったりな出で立ちの娼婦が、芳しい美酒に艶やかな笑顔を添えて接客していた。 (こ、これが娼館……!) 「ディナイ様、珍しい。今夜は連れがいらっしゃるのね」  ステュはどきっとした。大広間から視線を戻してみれば、ディナイに群がる女性三人が揃ってコチラを眺めていた。 「ど、どうも、です、こんばんは」 「あらまぁ、初々しいこと」 「ヒヨコみたい」 「ピヨピヨ」  堂々とからかわれたステュだが、何故だか悪い気はしなかった。むしろ、もっとおばかにされたいと倒錯的な気持ちが湧いてきそうになった。 「私達で仕込んで差し上げましょうか?」 「へっ?」 「手取り足取りレッスン、美味しく下拵えしてディナイ様のお皿に、ハイ、どーん!」 「はっ?」 「ディナイ様お気に入りのスパイスでお好きに仕上げて、ご賞味あれ」 「えっ?」  三人お揃いの赤髪を靡かせ、甘ったるい香りを振り撒いて自分を取り囲んだ彼女達に、ステュは棒立ちと化す。豊満な胸が腕に当たると冷や汗までかいた。 (俺、もしかして女の子って思われてる?)  今はドレスを着ているし、たまに顔を合わせれば副村長であった祖父からは「軟弱そうな女顔だ」とブツブツ文句を言われてきた……。 「うわ!?」  突然、ディナイに腕を引っ張られた。無駄な贅肉などない、スラリとした筋肉質である彼の逞しい胸板にステュの片頬は着地した。  慌てて顔を上げれば、骨張った肩をがっしり抱かれ、耳打ちされる。 「わかりやすく鼻の下を伸ばすな、ステュ」

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