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「ッ……いちいち耳打ちしなくていいでしょうが! 大体、勇者様だって常連のくせに! 鼻の下伸ばしっぱなしのくせに!」 「ヤキモチやいてるわ、このヒヨコちゃん」 「コイツはヒヨコじゃない、ミツバチだ」 「ミツバチちゃん。確かに髪の色もハチミツ色ね」 「花から花へ、移り気な子なのかしら」  高級娼婦の三人に接近されて混乱していたステュだが、別の女性と目が合うと、たちまち放心した。  緩やかなカーブを連ねる白い階段を彼女は下りてくるところだった。  目のやり場に困る下着同然の衣装ではなく、裾を引き摺る程に長い、白のタイトドレス。しかしながら大胆なスリットつきで、角度によっては太腿がこれでもかとお目見えしている。  レース仕立ての扇子を携え、一目で美女だとわかる彼女は、玄関ホールで屯していたステュ達の元へ舞い降りた。 「お客様がお待ちよ」  扇子の上に覗くキリッとした瞳。ステュは「女王様」と呼んで形振り構わず平伏したくなった。  一方、娼婦達は揃って「はーい」と返事をし、凶器にも近いピンヒールで颯爽と大広間へ。癖のない長い黒髪を背に流した彼女は、三人を見送ると、ステュの肩に腕を回しているディナイと向かい合った。 「またタダで泊まりにきたのね」 「のっけから手厳しいな」  ステュは二人を何度も交互に見比べた。  恐ろしく絵になる二人。余計な言葉は必要ない、気心の知れた間柄と思わせる親しげな雰囲気。 (もしや、この二人、恋人同士では?) 「兄さんが同伴なんて珍しい」  ステュの余計な詮索は彼女の一言によってバッサリ一刀両断された。 「今日からココでコイツを働かせてやってくれ、シン」  凛とした美貌の持ち主、兄のディナイと目元がよく似た妹のシンは、当の兄を一瞥した。 「男の子じゃないの」  ステュは……縮こまった。女装が完璧で男だとバレていないのかと思いきや、シンにはお見通しだったようだ。自惚れから来る恥ずかしさに青少年は居た堪れなくなった。 「お客様以外は男禁制。それを知っていて、よく頼めるわね」 「俺みたいな例外もあるだろ」 「例外というより特例かしら」  身の丈が百八十以上あるディナイまではいかないが、背の高いシンは腰に手を当て、ステュの顔を覗き込んできた。 (こんなにも綺麗な人、初めて見た)  そして、きっと、これから先もお目にかからないないだろう。眉目秀麗なシンを間近にして、ステュは傍目にもわかる程、そわそわした。 「妹に惚れるんじゃないぞ」 (ギクッ……!)  すかさずディナイに釘を刺されて動揺するステュに、シンは、ため息まじりに言う。 「貴方には娼館の下働きをやってもらうわ」  娼館の女主人であるシンの言葉に、ステュは内心ほっとした。そういう嗜好の客相手の接客業をするのかと、こっそり心配していたのだ。 (勇者様が意味深に言うもんだから、さ)  女装をさせたのは、客以外は男禁制というルールがあったからなのだろうか。それならば最初に説明してくれたらいいものを、この勇者、見た目通り人が悪い……。

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