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「ディナイ様だわ!」 「久し振り過ぎてまた恋しそう!」 「勇者様ぁぁあ!」  ステュがこの会話を聞くのは、もう何回目になるだろう。  ステュを娼館に預けて、それから、ディナイは様子を見に足繁く「二番目の天国」を訪れていた。  この半年間において月一のペースといったところか。 (これっきりなのかと寂しがった俺、ちょっとだけ、いや、かなりのおバカさんみたい) 「髪飾り、首飾り、腕飾りだ」  開放感ある吹き抜けの玄関ホール、ディナイにお土産をもらってお世話好きトリオは大喜びしていた。  魔物退治に出向いた先で、救われた人々から差し出されるというお礼の品物。荷物にならないよう、近くの町の質屋ですぐに換金するらしい。持ち運びしやすい装身具などは娼館で配っていた。 「勇者様、あのー、俺には……?」  ステュがおずおずと近づいてみたら「お前にはこれだ」と草臥れた冊子本を数冊手渡された。 (俺は古書店じゃない!) 「お前の部屋で仮眠をとらせろ」  はしゃぐ三人に手を振られながらディナイは階段を上っていく。古臭い本を胸に抱えたステュは、慌てて後を追いかけた。  新月の勇者は娼館の常連客。他の客にはそう思われがちだが、その実態は、女主人のシンとは兄妹関係にあり、家族の近況を確認がてら屋根裏部屋で休んでいくという健全なものであった。  娼館に導かれた日、客の会話を鵜呑みにしたステュは、娼婦と遊び耽って鼻の下を伸ばし放題、なんて勘違いしたものだった。 「今日も夜中に発つの?」 「まぁな」  娼館の門は開放されたばかり。ガランとしたお得意様専用の二階を通過して、三階へ。これからお仕事である娼婦達と廊下で擦れ違う度、キラキラしたお土産を渡しているディナイを見、ステュは頬を膨らませる。 (俺のはちっともキラキラしてない……ネズミ色だよ……しかも叩けば埃が出そう……)  三階の隅にある階段を上って、突き当たりの木製の扉を開けば、屋根裏部屋へ到着する。  斜め天井が特徴的で、壁には格子窓、照明器具はランプが一つだけ。  一人用の肘掛け椅子。床には色褪せた絨毯。  壁際にあるフカフカの寝台はステュの一番のお気に入りだ。  小さな丸テーブルには花瓶を置いて、白バラを活けている。枯れるまで発光するおかげでランプを点さなくても薄明るい。  片田舎の村にいた頃はひょろっとした体つきであったのが、今は同年代の平均体型にやや近づいたステュにとって、十分寛ぐことができる、一つ一つに愛着のある部屋だった。 「ご飯は? 何か食べる?」 「娼館が開放されている間、階下は立ち入り禁止だろうが」  長躯のディナイだと、傍から見ても窮屈感が否めなかった。 「パン屋でオマケにもらったグミベリーパイならあるよ! 魚屋でもらったクッキーも!」 「魚屋のクッキー? 一体、何味なんだ」 「ツナ味!」 「……この花瓶のバラもお前のおやつ用か」 「花の蜜はもうたまにしか吸ってません!」 「たまに吸ってるのかよ」

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