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5-1-勇者様とピクニック
爽やかな海風が丘の上を吹き抜けていく。
そそり立つ岸壁。急斜面に沿って飛ぶ海鳥。なだらかな水平線を描く紺碧の大海原は凪いでいた。
「気持ちいい」
晴天の麗らかな正午、ステュは栄えている島の中央部から突端となる岬まで来ていた。
初めて訪れる場所だった。辺り一面草原だ。野花が咲き渡り、長閑でほのぼのとした時間が流れていた。
「ここでご飯にしよう!」
「その辺を飛び回る虫も味見する羽目になりそうだ」
前回の訪問から約一ヶ月が経った今日。今までと同じペースで島に赴いたディナイとピクニックに来ていた。
(勇者様が午前中に来るのって珍しい!)
ピクニックを提案したのはシンであり、乗り気のステュが「行こう行こう」と誘い、前日に「悪しき魔物」を討伐してきたディナイを連れ出したのだ。
「アーリアとニタとシェラが色々詰めてくれたんだよ。何が入ってるかなぁ」
「酒はないのか」
「俺の好きなオレンジジャムサンド入ってるかな!」
ステュが敷物を広げれば、食べ物と飲み物が詰め込まれたバスケットをディナイは真ん中に下ろした。
「あれっ?」
ロングソードは娼館に置いてきたディナイが仰向けに寝そべり、ステュは目を丸くする。
「寝ちゃうの? 一緒に食べないの?」
目を閉じたディナイは答えない。ステュは少々がっかりしたものの、勇者様はお疲れなんだと気を取り直し、バスケットの中身を確認した。
(やった! オレンジジャムサンドあった!)
親しくなったお世話好きトリオが用意してくれたランチ。午前中の仕事を終えてお腹がペコペコだったステュは、大好物やチーズに果物、たらふく食べた。
瓶に入ったブドウジュースを飲んで一息つくと、草原を見渡した。
時々、ウサギが飛び跳ねるくらいで誰もいない。旅行者も来ない穴場だとか。淡い色をした花達が仲睦まじげに揺れていた。
(そうだ、お礼に花を摘んで帰ろう)
頭の下で両手を組んで、長い足が敷物から食み出ているディナイを残し、意気揚々と辺りを探索した。
(この色はちょっと地味かな、あっちの花は……っと、トゲがある、危ない危ない)
メイド服姿のステュは、ウサギ張りに断崖絶壁の丘の上を跳ねては回り、花を摘む。
シンに切ってもらっている、肩に届く長さのハチミツ色の髪を、海風が悪戯に撫でていった。
「あの花、綺麗だなぁ」
青い花が群生している崖っぷちにステュは目を留めた。
(海と同じ色だ。あんなの、今まで見たことがない)
あの辺りなら海に真っ逆さまなんてことはないだろう。期待に胸を膨らませ、ステュはスキップまじりに近づこうとした。
「何やってる、ステュ」
危なっかしい花摘みを食い止めたのは、昼寝していたはずのディナイだった。
華奢な体を後ろからひょいっと抱き上げ、肩に担いだ彼は、わかりやすく顔をしかめていた。
「ウサギの真似でもしてるのかと思ったら、勢い余って崖の方に行きやがって」
逞しい腕が腰に絡みつき、ステュは口をパクパクさせる。
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