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6-2
シンの許可を頂戴し、初めて地下の大浴場を訪れた。
「広い……!」
神殿を彷彿とさせる重厚な建築様式。並ぶ円柱には松明が点され、石造りの風呂はとにかく広い、端から端まで泳げば適度な運動になりそうな大きさだった。
湯気が立ち込める中、全裸のステュは、だだっ広い開放的な風呂の隅っこにちゃぷんと浸かった。
屋根裏部屋の猫足の浴槽とは大違いだ。
足を伸ばせるのは当然のこと、些細な音が反響して洞窟にでもいるような気分になる。色鮮やかな花弁まで浮いていて、夢見心地にさせられた。
「お客さんと娼婦のみんな、いつも、ここで……」
ステュは、あんまり考えないようにした。なるべく平常心を心がけ、普段の微温湯とは違う熱いお湯を満喫しようとした。
「昨夜も疲れたわぁ」
大浴場に突然響いた、その声。
「明日はお祭りでしょう?」
「舞踏会があるんですって」
「男の上で踊るのは得意よぉ」
ステュは……かたまった。
大浴場に忽然と現れた高級娼婦のお世話好きトリオ、アーリア、ニタ、シェラに慌てふためいた。
「あああ、あの!? 俺います! スーちゃんいます!」
「あらぁ、スーちゃん?」
「悪い子ね、お仕事さぼってお風呂?」
「お仕置きしてあげましょうか?」
ステュがいると知って驚くどころか、いつもの調子でからかってくる三人。しかも、自分がいる風呂の隅っこへ来ようとするものだから、ステュは仰天した。
「シン様から許可はもらいました! あああ、あのっ、来ちゃ駄目! です! 一応これでもスーちゃん男なので!」
ステュの焦りっぷりに三人はさも楽しげに笑い合う。初心な少年の必死のお願いを聞き入れ、隅っこへ近づくのはやめ、だだっ広い風呂の中央、寄りかかることのできる縁に揃って落ち着いたようだ。
(入ってきたの、ぜんっぜん、わからなかった)
こちらから早く出ていくべきか。それとも向こうが出るのを待った方がいいのか。
どうしたものか迷い、挙動不審になっていたステュは、ふと心を奪われた。
おもむろに三人が歌い出した。
複雑なハーモニー、高音と低音を行き交う危うげな旋律、時に限りあるはずの声域を無視して奏でられる、世にも妖しげで艶やかな歌。
「ああ、この歌は駄目ね。スーちゃんには刺激が強いわ」
歌が終わっても、魅惑の声は頭から離れず、ステュは胸をざわつかせる。
湯気のこもる地下の大浴場。それまで頑なに逸らしていた視線を、ぎこちなく三人のいる方へ向けてみた。
――……パシャン……ッ……
想像を超えたシルエットにステュは度肝を抜かれた。
湯気にぼんやりと浮かび上がる輪郭。パシャパシャと水面を叩き、悠々としなって翻るのは、魚の尾びれらしきものであった。
「私達は魔物なの」
ピタリと揃った三人の美声による、思いも寄らない告白。
「もちろん善き魔物よ」
「決して命はとらないわ」
「でも人間の男達を手玉にとるのは面白いわね」
ステュは、何だか物凄く熱くなってきた。
三人の歌声に惑わされたのだろうか?
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