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第11話 好きだから☆
ヴーヴーと携帯が振動しながらデスクの上で暴れるのを、横目に手に入れた書類を舘岡は眺めていた。
思いがけず手に入れる事になった書類だが、あの男の報告通りだった事に気分は最悪だった。
ヴーヴーと鳴りやまない振動に、つい感情のままでてしまった。
「なんの用だ!!」
「は、はい!!あの・・・私、加賀真里夜さんの・・・」
「・・・真里夜の!?」
返ってきた言葉に、画面を確認すると確かに真里夜の会社の番号だった。
その事に、携帯を握る手が震える。
「加賀さんが、近隣の病院に搬送されたので・・・。」
はっ??真里夜が、搬送された・・・?
震える手で、メモを取り車を呼ぶ。
車を待つ間も、病院へ着くまでの間もずっと、今朝の真里夜の様子を思い出していた。
確かに最近は、ぼーっとする事や何か考えている様子を見かけていた。
けれど、その原因の従弟も今は体調不良で休んでいる筈・・・。
まさか!? 昨日の夜のが・・・・?
グルグルと考えているうちに、搬送された病院へと着いて思わず、舘岡は舌打ちをしてしまった。
タクシーの運転手は、その事に逃げる様に走り去ったが、舘岡はそれどころじゃなかった。
こんな所に、真里夜が搬送されたとか・・・、あり得ない!!
窓口で案内された病室に向かう迄も、舘岡はずっとイライラしてしまっていた。
病室まで辿りつくと、ドアが開いたままだった。
その事にも、イラっとした舘岡だったが、カーテンで仕切られていた中から真里夜の独り言が聞こえて、思わず其の場に立ち尽くしてしまう。
「・・・別れないと・・・な・・・。」
はっ??
別れる? 誰が? 誰と??
ふざけるな・・・。
そう思った時には、カーテンを勢い良く開けていた。
「真里夜、どういう事だ?」
「えっ・・・た、舘岡? な・・・なんで・・?」
「真里夜の会社の人から連絡貰って・・・。真里夜がココに運ばれたって、ってか・・・別れる。ってどういう事だ・・・?」
「そ・・それは・・・。」
言いづらそうな顔をした真里夜の顔色は、青ざめ。目の下にはクマがうっすらと浮かんでいた。
その顔をみて、思った以上に真里夜の体調が悪い事にショックを受けた。
「はぁ・・・。点滴終わったみたいだし、帰ろうか。」
ナースコールを押しながら、真里夜の頬を撫でると、真里夜の止まった筈の涙がまた零れ落ちた。
その涙に口付る。
ちゅっちゅッと、軽いキスを繰り返していると、看護師が点滴を外しにやってきた。
帰りのタクシーでは、終始無言の二人だった。ただ、舘岡は真里夜の左手をずっとにつないでいた。
薬指にある指輪をなぞりながら、その事にどうにか心を落ち着かせようとしていた。
あの時、渡す筈だった指輪。
・・・指輪。
ああ、そうだ・・・。あのクソ猫もしてたんだったな。
ギリりりりと思わず、奥歯をかみしめてしまい。手にも力が入ってしまう。
だが、その事に舘岡は気が付いていなかった。
真里夜もまた、手を繋がれたまま車のガラスに映った舘岡の横顔を眺めていた。
エレベーターでユウタに会ったあの日。
真里夜は、どうしてもユウタの指輪がきになって、ユウタのいる部署へ立ち寄っていた。
総務部と書かれた部屋の扉をノックしようとした時、中からユウタの声が聞こえてきた。
「あ、僕。妊娠したんで、重い物とか立ち仕事は出来ないんでよろしく~。」
えっ・・・?妊娠・・・??
今、ユウタはなんて・・・?
聞こえてきた言葉に、足元が崩れ落ちていく気がした。
舘岡と再会したのは、所謂婚活パーティー。
そこに参加した真里夜の目的が、家の為になる相手を探し妊娠する為だったのなら、舘岡が同じ様な目的でもおかしくは無かった。
その事実に、今更ながらに気が付いた。
あの会場にいた時点で気づくべきだった。
高校を卒業する前に居なくなった彼が、今何をしているのか真里夜は知らなかった。
今だけじゃない。
肌を重ねていたあの時も、真里夜は舘岡の親が何処に居るのか知らなかった。
知ろうともしなかった。
知ってしまえば、離れるのが辛くなるから。
そう思うのに、舘岡がくれた指輪を、ユウタがしている理由が知りたくて仕方なかった。
聞きたくない、知りたくないと思うのに。
けれど、ユウタを選んだのだったら・・・?
今ままでの人達の様に、忘れられるんだろうか??
それなら、いっそ・・・舘岡との子が出来たらいいのに。
なのに・・・。
ぽろぽろと涙が頬を伝う。
「真里夜!?どうした、どこか痛むのか? ああ、強く握り過ぎてたか?!」
「え・・・あ、大丈夫。」
「・・・本当か?」
マンション前で、タクシーを降り。舘岡に支えられて部屋まで入ると、真里夜から舘岡に抱き着き深く唇を奪った。真里夜からの突然の口付けに、驚きつつものしっかりと応戦すれば、縋る様に真里夜が舘岡の上着を掴んだ。
「ま、真里夜・・ここじゃだめだ。」
「や・・やだ。離れないで。」
「っっく~・・・・・あー、しっかり捕まってろよ。」
「えっ・・!?」
上着を掴んだままの真里夜を、抱え上げ寝室へと運ぶとゆっくりとベットへ降ろした。
一旦離れようと上体をおこした、舘岡に真里夜の手が伸び引き寄せる。
「ま、真里夜!?」
「やだ・・・離れるな。」
「えっ・・・ん・・。ま・・・まり・・んっつ。」
何度も何度も、角度を変えて真里夜の唇が、舘岡の唇に重なり口腔内へと舌が入ろうとする。
その必死さに、つい意地悪をしたくなり舘岡がタイミングをワザとずらしては離れようとすると、必死に真里夜が食らいつく。
「やっ・・じょう・・はな・・・れちゃやだ・・・。」
「!!」
「静。」
「ま、真里夜!」
真里夜からの名前呼びに、舘岡の箍が外れる。しがみついていた真里夜の手は、舘岡に掠め取られ。指先一本一本丁寧に弄られる。開いている手で、真里夜の服を脱がし、淡く色付いた乳首を弄り始める。舘岡との性行為で、今まで感じる事の無かったそこは、今では立派な性感帯の一つになっていた。
乳首を捏ねられ、弄りあげられ、時には吸われ舐め上げられる。強く吸われたながら、片方を摘ままれれば、真里夜のペニスからはしとしとと先走りが零れ、舘岡の腹を濡らしていた。
「あ・・・、じょ・・うも・・ぬいで・・・。」
「・・ああ、それよりも先に真里夜をイカせたい・・・。駄目か?」
「ひゃぁ!! あっつ・・・あん・・・や・・やだぁ。だ、駄目ッツああああああ」
グチュグチュっと先走りを使い、扱き上げられればすっかりと勃起したペニスに舘岡の舌が這う。そのまま一気に咥えこまれ、じゅぽじゅぽっと卑猥な音を立てながら、手と舌、喉を使って高められる。
びゅるるるっ
「ん・・・はぁ。」
ゴクゴクと、最後の一滴も残らず吸い取られ、嚥下される。
そして、また真里夜から離れようとした舘岡に、快感に呆けていた真里夜の手が伸びる。
「離れ・・るな・・よ。」
「・・けど、口ゆすいできた方がいいだろ?」
「・・・離れられる方が・・・やだ。」
「・・・そっか。」
ギュッっと舘岡に抱きしめられ、ぼぅっとしていた頭が段々とすっきりしていく。
「あ・・、舘岡が気になるなら・・・ゆすいできても・・・」
「・・・真里夜」
「えっ・・・ん・・・んぁ」
「名前。」
「え・・・あ・・あむ・・・じょ・・・じょう。」
「そ・・う。」
独特の味がする舌が、真里夜の口内に入り込み上顎を擽る様に動けば、反射的に真里夜の舌が跳ねる。
跳ねた舌を絡め、飲み込みきれなかった唾液が唇を伝い零れる。その雫さえも逃さないと、舘岡の指が掬い取りそのまま指が今度は真里夜の口に差し込まれた。
「ふぅ・・ん・・」
「そう、上手。もっと、たっぷり舐めて。」
「んんっ・・・。」
唾液で十分と濡れた指が、真里夜の狭い縁をなぞり、ゆっくりと中へ入り込んでいく。
「あっ・・・。」
反射的に、力が入り絞め付けてしまう。
「真里夜・・・、力抜いて・・・。」
「ん・・、アッ。キス・・も・・っと。ん・・・。」
「あぁ・・・真里夜・・・。」
グッチュグッチュっと響く水音は、どっちのだろう?
パンパンと打ち付けられる肉音が、脳内に響く。最奥に放たれる熱を何度感じたのだろうか?
ぐちゃぐちゃになったはずのシーツはサラサラな物に変えられ、真里夜の身体もさっぱりとしていた。
寝返りをうった先には、肌ざわりの良い布。
思わず頬を寄せれば、くすっと小さく笑われる。
その振動に、ゆっくりと瞼を開ければ朝方まで交わっていたとは思えない程、艶やかな顔をした舘岡がいた。
「真里夜、おはよう。」
「・・・た・・あ、静。おはよう。」
「ん。正解。」
チュ、チュっと頬と額にキスを落された。
甘い空気が漂う。このままずっとこうしていたと思った。
「・・・真里夜。話をしようか。」
「・・・ああ。そうだな。」
そう言った舘岡の顔を真里夜は怖くて見る事が出来なかった。
思わず俯いた真里谷の顔を、舘岡は両手で捕まえると、自分の方へと向けた。
チュ。
唇に軽いキスを落す。
「真里夜、ちゃんと俺を見て。」
「・・・うん。」
見てと言ったのに、気が付いたら目を瞑っていた。
そのまま重なる唇を離したくなかった。はむはむっと、下唇、上唇を食まれ。舌もちゅるると吸われる。何度も何度も深いキスを交わす中で、薄っすらと目を開けると、舘岡のアイスグレーの瞳に見つめられていた。驚いて目を見開くと、一気に喉奥迄食らいつかれる。
「んんっ・・・あっ。静!!」
「ああ、ゴメン。つい・・・」楽しくなって・・・。
「え?」
「いや・・。何でもない。」
ゆっくりとベットから舘岡が降りようとした時、バランスを崩した舘岡が少しふらついた。
「えっ?! ちょっ・・・!」
「ああ、悪い・・・。」
「だ、大丈夫か?」
「あぁ。大丈夫だよ。御茶でも飲もうか?」
カップに注がれた温かな御茶は、いつもの紅茶とは少し味が違った。
「ああ、これ? ルイボスティーって言うんだ」
「へぇ・・・。」
目の前に座った舘岡と目が会う。
あのアイスグレーの瞳が自分を映し、自分に向ける微笑みを失いたくないと思った。
両手でカップを掴めば、ゆっくりと冷えていた指先が温かくなる。
重なった指先が、薬指のリングをなぞる。
「・・・静。オレ、お前の事が好きだ。」
「・・・真里夜。」
真里夜がアイスグレーの瞳を見つめる。
冷たく見えるその色を、真里夜一度も冷たく感じた事は無かった。
その瞳が、真里夜の告げた言葉で、一気に温度を下げた。
「だから・・・別れよう。」
「・・・はぁ?」
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