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第10話 十月某日【独占欲】鴫野

 わざと音を立てて唇を重ねた。とろけそうな柔らかい唇を、そっと唇で食む。傷つけないように優しく歯を立てて、唾液で濡れた舌でなぞる。唇に温かく湿った吐息が触れる。先輩の温度をこんな近くで独占している。独占欲が満たされる。覗き込んだ先輩の目はまだ潤んでいた。 「先輩」 「もっと、しろよ」  震える唇から掠れた甘い声がして、先輩の体温を乗せた吐息が唇を撫でた。理性の箍が音を立てて外れた。  上下の唇を交互に舐って、濡れた唇を深く重ねた。  先輩の舌が誘うように俺の舌先をつついた。  掬おうとした先輩の舌はするりと逃げて、逆に俺の舌が絡め取られる。熱くてぬるつく生き物みたいな舌が、器用に俺の舌を絡め取り、吸い上げる。 「ン」  思わず声が漏れる。腰に、腹の底に、重たい熱が溜まっていくようだった。  先輩の舌はそれだけでは飽き足らず、俺の口の中を味わうように伸ばされた。粘膜を、歯列を、口蓋を、確かめるように、ゆっくりとなぞっていく。勝手に溢れる唾液が混ざって、湿った音がする。  勝手に身体が熱を募らせていく。まだ、唇を重ねて、舌を絡めただけなのに。心臓は煩く脈打って熱い血を全身に送っていく。  先輩はゆっくりと唇を離した。  どちらからともなく吐いた息は熱く湿っていた。鼻先が触れ合う距離で絡む視線は熱く、先輩の薄い茶色の瞳はすっかりとろけていた。  震える手で先輩の制服を脱がせていく。指先に先輩の体温を感じる。俺の手の震えに気付いているのか、先輩はされるがまま、おとなしくしていた。シャツを脱がせて、ベルトを外して、脚から下着と一緒にスラックスを抜いて、残った靴下も脱がせる。  晒された白い肌が眩しい。先輩のちんこはうっすら頭を擡げていた。  俺も脱いで二人とも裸になった。俺のちんこもすっかり勃ち上がっていた。  裸になって向かい合って座る。 「先輩、これ」  ベッドの下に隠していたローションのボトルとコンドームの箱を渡す。このために、自転車を三十分漕いで家から遠いドラッグストアで買ってきた。家の近所で買う度胸はない。 「ん、さんきゅ」  先輩はコンドームのパッケージを開けた。 「お前はこっち」  先輩が床に落としたスラックスのポケットから取り出したのは、XLと書かれたパッケージ。こんなん、どこで見つけてきたんすか。 「つけてやるよ」  先輩は俺のちんこを緩く扱いてから、小さなパッケージを破って取り出した半透明のそれを慣れた手つきで被せた。確かに、こっちの方がきつくない。 「後ろから、しろよ」 「わかりました」 「準備、してあるから」  準備って、ケツのこと? 俺はおそるおそる手を伸ばした。先輩の勃ったちんこの下、ひくつく小さな窄まりに指先が触れる。先輩はただ息を飲むだけで拒まなかった。おれが触れてもいいんだと少し安心した。  確かめるようにひくつく窄まりを撫でると、指先に、ぬめりが触れる。俺とやるのに、準備してきてくれたことが嬉しい。  指先にローションを垂らして、指をゆっくりと埋めていく。先輩は上がりかけた声を飲み込んだ。先輩の可愛らしい窄まりは、中指を簡単に飲み込んだ。薬指を足しても、きつそうな感じはない。それどころか甘えるみたいに絡みついてきて、ここに入れるのかと思うと眩暈がした。  二本の指で拡げたり、ゆっくりして出し入れしたりして、すっかり馴染んだ先輩の中を確かめる。 「先輩、痛くない?」 「ん」  先輩は唇を噛んで声を我慢しているみたいだった。 「今度、俺にも準備させてくださいね」  そっと指を抜くと、先輩は息を詰めた。  ようやく泣き止んだ先輩を抱いた。抱けと言われたからというのもあったけど、抱きたかった。  こんな関係になってから、初めて能動的に動いた。  自分の下に先輩を抱き込んで、突っ伏した先輩の腰だけ高く持ち上げて。ローションを足して、先輩の小ぶりなケツを割り開いて、完勃ちのそれを捩じ込む。フェラされるまでもなく、先輩の中を弄っただけでこの有り様だった。先輩の中はしっかり解してあるのにきつくて、すぐにいった。  それだけじゃ足りなくて、何度も腰を振って、熱い泥濘みたいな先輩の中を掻き回した。  奥を突き上げるたび、身体の下に閉じ込めた先輩が、何度も背中を震わせる。 「先輩」 「っ、し、ぎの」 「痛くない?」 「ん、きもちい、っあ」 「先輩、かわいい」  顔が見たかったけど、前からはさせてくれなかった。けど、声だけでやばかった。突っ伏して口を押さえているのか、くぐもった声が上がる。苦しげで、それなのに気持ちよさそうな声。それだけでちんこにくるものがある。  腰を振ると、先輩の中は甘えるみたいに熱い粘膜が絡み付いてきた。先輩の体温に包まれて、すぐに限界が来てしまう。  先輩の中に射精する。何度も脈打って、熱いものを先輩の中に放った。  先輩は少しだけ嬉しそうだった。  誰かの代わりかもしれないけど。  それでもよかった。  何回いったか、覚えていない。  先輩からちんこを抜いて、横に倒れ込む。  今になって疲れが押し寄せてくる。心臓がうるさく喚いていて、もう動きたくなかった。  抜いたちんこの先、ゴムの先には精液がこれでもかというくらい溜まっていた。何回いった?  片付けしなきゃな、と頭の隅で考える。 「おい、大丈夫か?」  先輩の声がするのに、瞼が勝手に落ちてくる。 「はは、やばいかも」  独り言みたいに、ぽつりと零すので精一杯だった。  その後、俺は気絶していたみたいで、起きると、先輩はいなかった。ローションとゴムの箱もどこかに片付けられていた。つけていたゴムも後始末してあって、腹にはタオルケットが掛けられていた。  スマートフォンの時計を見るともう夜九時。そろそろ、母親が帰ってくる時間だった。  暗い部屋に一人取り残されたみたいでなんだか寂しくて、明かりをつけると眩しくて目を眇めた。  部屋には、先輩の痕跡はない。ゴミ箱の中を覗くと、丸められたティッシュが転がっていた。  あの人の腹にザーメンを注いで、愛を注いだ気になって、バカみたいだ。  まだしばらく、先輩はあいつのことを引き摺るだろう。  はやく、俺だけ見てほしいと思った。 深夜。 『大丈夫ですか』  心配になってメッセージを送った。返信は期待していなかった。 『大丈夫』  既読がついてから少し間があって、返事が来た。 『ならよかったです。おやすみなさい』 『おやすみ』 そんなやりとりで今日が終わった。

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