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第12話 十月某日【いちいち聞くな】蓮見
腸内洗浄のやり方を教えて、ついでに一緒にシャワー浴びて、ローションを仕込んだ。準備が終わる頃には、外はすっかり暗くなっていた。
「先輩、お腹、大丈夫?」
ぬるま湯を入れて出して、を繰り返すわけで、その行為に馴染みのない鴫野は心配しているのか、身体を拭きながら、しきりに俺の方を見た。
「ん、もうへーき」
「先輩、いつも、あんなことしてるんすか」
「ん、まぁな」
スカトロの趣味はないから、面倒だけどこれはやるしかない。もう慣れた。
「ありがとうございます」
鴫野はぺこりと頭を下げた。いい奴なんだよな。こいつ。
「ほら、部屋いくぞ」
着替えもそこそこに、俺は鴫野の手を掴んだ。
「え、前、から、いいんすか」
ベッドの上。裸で大の字になった俺を見て、鴫野が言う。
「いいよ」
俺が、正常位でしたかった。
「先輩、すき。嬉しい」
躊躇いがちなキスが降ってくる。あちこちに触れる薄めの唇は、思ったより弾力があった。
鴫野に全身を舐められ、キスされる。くすぐったい。乳首を舐められ、ぬめる舌先が尖った乳首を弾く。
気持ちいい。
こいつにされるの、めちゃくちゃ気持ちいい。
好きだっていうのが、黙っていても伝わってくる。触られるだけで身体が幸せになる。
気持ちよくて、あいつに触れられた記憶が上書きされていく。あいつには、こんなことされたことなかった。
「先輩、ここ、舐めていい?」
鴫野の指先が撫でたのは、緩く勃ち上がった俺のちんこだった。
「いちいち聞くなって」
正直、恥ずかしい。フェラされるなんて、いつぶりだろう。長谷川にされたことはない。その前、彼女がいた時以来だ。
「っ」
鴫野の口の中は熱い。涎もいっぱい絡められて、溶けそうだった。舌が幹をじっとりと舐め上げて、裏筋をくすぐる。
舌と唇とで丁寧に、味わうみたいに愛撫されて、限界が近づいているのがわかった。
「っう、あ」
声が我慢できない。こんなの、知らない。こんな気持ちいいの、無理だ。
なんでこいつ、こんな上手いんだ?
そんなに早いわけじゃないのに、すぐいきそうだった。
「しぎ、の、も、いく」
鴫野の頭を撫でる。
強く吸われて、鴫野の舌先が尿道口を抉った。
ばか。こんなの、無理だろ。
あいつだって、こんなのしてくれたことないんだから。
俺は呆気なく、鴫野の口の中に射精した。
舌の上で何度も跳ねて、熱いものが鴫野の口の中に散る。
「は、っあ……」
吐き出した息が熱い。心臓が煩く鳴っている。
鴫野の喉が鳴った。
「は、お前、飲んだの」
「ん、はい」
顔を上げた鴫野は平然と答える。
「まずいだろ」
「そんなことないっすよ。あんたも、俺の飲んだじゃないすか」
それはそれ、これはこれだろ。
射精した後の怠さの残る身体を起こして、煩い鴫野の唇を塞いだ。青臭いような生臭いような、精液の匂いがした。
唇を離して鴫野の顔を見ると、どちらからとなく笑った。
「ばーか」
何でそんなに俺を甘やかすんだよ。
あんなことがあった後で、チョロい俺は陥落寸前だった。
「先輩、そろそろ限界なんで、挿れていいすか」
鴫野の声に、欲情の色が濃く乗ってくる。低い、男の声。後輩面してるくせに雄臭さを滲ませる鴫野に、腹の奥が甘く疼いた。
俺だって男なのに、どうしようもなくこいつに一番奥まで暴かれたいと思ってしまう。
「いい、よ」
心臓が煩い。初めてする訳じゃないのに、びっくりするくらい緊張している。
脚を開いたところに鴫野が陣取る。俺の視線の先、鴫野のちんこはすっかり勃ち上がって先走りを垂らしていた。
待て、なんでお前のちんこ、もう臨戦態勢なわけ?
俺のそんな疑問を知る由もなく、鴫野はゴムを付けていく。
「先輩も、つけます?」
「ん」
俺が頷くと、鴫野は辿々しい手つきで俺のにもつけてくれた。至れり尽くせりだった。
ゴムもつけて、準備のできた鴫野は更にローションを垂らし、張り詰めた先端を俺の窄まりに押し当てた。
ゆっくりと圧をかけられて先端が沈み込む。
「っ、うー」
「先輩、痛い?」
「いたくね、から」
痛くない、っていうのは本当。ただ、鴫野の段差のエグい雁首が入ってくるのはちょっと苦しい。皺が伸びきって、目一杯拡がっているのがわかる。ローションをしこたま仕込んでおいたのと鴫野のにもたっぷりかけてあるおかげで、引っかかるような感じはない。
一番太いところをつるんと飲み込んで、あとはずるずると、行き当たりまで入ってくる。
ほんと、こいつの、通常時は大したことなさそうなのに、こんなにでかくなるの、反則だろ。
でも、これを知ってるのが俺だけなの、少しだけ優越感があって嬉しい。
「先輩」
思わず頬が緩んだところに声をかけられて、我に帰る。
「なんだよ」
「動いていい?」
「動けよ」
言ってから、俺は後悔した。
鴫野が腰を引く。雁首の段差が中を全部引き出すみたいに抉りながら出ていく。熟れた肉壁をこそぐように擦られて、中が喜んでひくついた。
「ーーッ、は」
嘘だろ。こんなの、知らない。この前と、全然違う。俺の知ってる鴫野じゃないみたいだった。
与えられる快感は暴力的なのに、鴫野はどこまでも優しい。浅いところまで抜けたのが、またゆっくり奥まで突き入れられる。肉壁越しのしこりも容赦なく弾かれて、丸く張った先が奥を叩く。
やばい。そのうち、この奥まで入れられそう。
ちらつく視界に映る鴫野は、心配そうに俺を見下ろしていた。
心臓を直接握られたみたいに、胸が苦しい。
「先輩」
「は、あ……?」
気持ちよくてぼーっとして、反応が遅れた。鴫野を見上げると眉を下げて笑った。
「ふふ、トんじゃった?」
「っ、るせ」
睨んだ俺を諌めるみたいに、こつ、と鴫野の先が奥を叩く。
「っあ!」
そこは、もう、やばい。痛くなくて、甘えるみたいにちゅうちゅう吸い付いてしまう。中は勝手にひくついて締め上げるから、嫌でも鴫野のかたちがわかる。俺の中に、深々と咥え込んだ鴫野の形がありありと浮かび上がる。
「先輩、そんな、締めないで」
鴫野が情けない声を上げるが、無理だった。
「んぅ、む、り」
無茶言うな。
中は擦られたら擦られただけ気持ちよくて、もう、俺の意思ではどうにもならない。身体が勝手に喜んで、鴫野を締め上げて喜ばせる。
「せんぱい、すき」
鴫野の動きが荒くなる。
俺のことなんか考えない、いくための、自分の快感だけを追う動きだった。
それでも、俺の体は鴫野が動いたらそれだけで快感を拾い上げる。もうどこを擦られても気持ちがいい。肌には汗が滲んで、触れ合っているところが溶けてくっつくんじゃないかと思った。
「先輩、いく」
「っあ、おれ、も」
中がきゅうきゅうと鴫野を締め上げているのがわかる。
鴫野が脈打って、胎の中で熱が爆ぜた。熱いものが放たれている。俺も、腹をひくつかせてゴムの中に射精した。
「先輩、すき」
鴫野の譫言みたいな声がした。
「俺も。好きだよ、鴫野」
鴫野はへらりと笑って俺の上に倒れ込む。
「あ」
こいつ、また気絶しやがった。
なんとか体力をつけさせないとなと思いつつ、乗っかられたままだと流石に苦しいので上から退かした。ついでにちんこを抜いて後片付けをする。期待してる訳じゃないが、こんなんじゃ甘ったるいピロートークなんて夢のまた夢だ。
また置いて帰るのはかわいそうだし、俺も寂しいから起きるまで少し待ってやろうと思った。
さっさとゴムを片付けて、一緒の布団に潜り込む。鴫野が起きるまで、枕元のライトをつけてマンガを読むことにした。
「ん」
一時間くらいして、隣で鴫野が身動ぎしたのでページを捲る手を止めてマンガを置いた。
「鴫野」
声をかけると、肩がぴくりと揺れて、鴫野は飛び起きた。
「せんぱい」
まだ眠そうな声だった。目も半分くらいしか開いていない。
「後始末してあるから」
言うと、鴫野は項垂れた。
「すんません、気絶してました」
「体力つけろよ」
「っす」
くしゃくしゃと髪を撫でると、鴫野は眉を下げて笑った。
そのはにかむような笑顔が可愛くて、こいつのこと、結構好きだと思った。
ベッドの上で何度も好きだと繰り返すこいつに毒されたのかもしれないけど。
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