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第16話 十一月某日【眠れない夜】鴫野

 文化祭から二週間経った、ある夜。  どうにも寝付けないのでランニングに出た。  先輩とは、宣言通り週一で会えるかどうかだった。先週は会えたけど、今週は会えていない。先輩はもうすぐ推薦入試。俺は邪魔はならないように待つだけだ。  その間、せっかくならと体力づくりを始めた。  なんせ運動部だった先輩の相手をするには、俺には圧倒的に体力が足りなかった。終わるなり気絶するし、頑張っても二ラウンド目にはヘロヘロだった。  体力づくりと、会えない間の発散とを兼ねて、ランニングと、筋トレを始めた。  もう深夜に差し掛かる時間だけど、こんな見た目なので大学生か、下手すりゃ社会人だと思われるのか、私服でたまにランニングするくらいなら警察に声をかけられることはほとんどなかった。  ふと、ジャージのポケットに入れていたスマートフォンが震えた。  足を止めて、スマートフォンを見ると、先輩からのメッセージが届いていた。 『何してんの』  素っ気ない、文字だけのメッセージ。でもそれは俺の脳内では余裕で音声再生される。 『走ってます』  それだけ送ると、少しして既読がついた。 『がんばれよ』  あざす。がんばります。それだけでがんばれます。 『はい』  返信して、俺は再び走り始めた。  もう少し寒くなる頃には、先輩の受験も終わる。  次に先輩に会うまでに、少しでもかっこいいと思ってもらいたいし、満足させたい。  そんなことを考えながら、俺は家までの道を走り始めた。

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