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第17話 十一月某日【ご褒美の時間】蓮見

 早朝。十一月ともなると早起きするには少ししんどい季節になってきた。家族にバレないようひっそりと起き出した俺は、まだ誰も起きていない自宅の脱衣所に向かう。フローリングの床は冷たくて、足の裏から体温が奪われていく。  脱衣所は静かだった。  寝間着のボトムと下着だけ脱いで下半身だけ裸になる。こんな姿、家族に見られるわけにはいかない。  ひやりとしたバスルームに入る。夜と違って誰か入った後じゃないし、バスタブにお湯を張っているわけでもないから寒いのは仕方ない。  アナルの辺りを軽く洗った後、腸内洗浄をする。シャワーヘッドを外してホース部分をアナルに当てる。胎の中にぬるま湯が貯まっていくなんともいえない感覚に足の指が丸まる。こればかりは何回やっても慣れない。腹の中にぬるま湯が溜まって、重たくなってきたところでシャワーを止めた。  少しすると腹がゴロゴロと鳴りだす。  少しだけ我慢してから、トイレへ。それを三回も繰り返すと、腹からはもう透明なぬるま湯が出るだけになった。  準備はこれで完了、あとは部屋に戻ってローションを仕込む。念のため、コンドームと小分けのローションをリュックに忍ばせた  これで俺の準備は終わり。  あいつに切羽詰まった声で呼ばれるのが、待ち遠しい。  そんなことを考えながら、目覚ましのアラームが鳴るまでの間、俺はまた眠った。  まともに鴫野と会うのは久しぶりだった。文化祭の後、推薦入試に集中するためにほとんど会っていなかった。会っても、少し話をして、キスをするくらい。セックスはしばらくしていない。  季節は少し進んで気温が下がったせいで、人肌が恋しかった。  昨日は推薦入試の試験日だった。今年一番のイベントである受験が終わって、ようやく一息つける。だから今日は、鴫野にいっぱい甘やかされたかった。  いつも通りに登校して、放課後は進路相談室で入試の報告をしてから、鴫野と待ち合わせた。  手応えはあったけど、ダメだったら一般入試がある。気は抜けない。  だけど、少しだけ息抜きがしたかった。頑張ったんだ。褒められたい。鴫野の甘い声で。  待ち合わせは昇降口。進路指導室に行ってきて時間がずれたせいで帰りの生徒の姿はほとんどなかった。  西に傾いた日差しが差し込む昇降口はサンルームみたいで暖かい。  上履きからローファーに履き替えて辺りを見回すと、いた。下駄箱に寄り掛かって、スマートフォンを弄っている鴫野の姿を見つけた。背が高いので、まあ目立つ。 「鴫野」  呼ぶと、鴫野はすぐに画面から顔を上げて笑った。 「先輩、お疲れ様でした」 「ん」  久しぶりで、目を合わせるのもなんだか照れくさくて、素っ気ない返事をしてしまう。本当は今すぐ飛びついて抱きしめられたい。 「お待たせ」 「大丈夫ッス」 「なあ、相手しろよ」  それで俺の言いたいことを理解したらしい鴫野は少しだけ目を見開いて、俯いた。 「……ッス」  こんなとき、鴫野は従順だ。  鴫野の部屋のベッドの上。制服姿のまま、鴫野に抱きしめられる。久しぶりの鴫野の体温だった。安心する。少し力が強くなったような気がする。 「先輩、これで受かれば受験終了っすか?」 「まあな」 「すげー、頑張ったんすね。お疲れ様でした」  鴫野が腕に力を込める。やっぱり、少し力が強くなってる。筋トレでもしたんだろうか。 「鴫野」  呼ぶと、鴫野は俺の顔を覗き込む。こちらを伺うような眠そうな目と視線がかち合う。 「もっと、褒めろよ」  素っ気ない声でねだる俺に、鴫野はふわりと柔らかく微笑みかけた。俺の好きな笑い方だ。 「先輩すごい。天才。めちゃくちゃ頭いい! かわいい!」  鴫野がキスを降らせてくる。最後のは違うだろ、と思うが、振ってる尻尾が見えそうなくらい嬉しそうにしている鴫野を見たらどうでも良くなった。  くすぐったい。いつもならめんどくさくなってしまうところだけど、今日はもうしばらくこうしていてもいいかもと思ってしまう。 「お前、なんか、雰囲気変わった?」  止めどなくキスを降らせてくる鴫野の両頬を手で包んで、鴫野の顔をまじまじと見る。重たそうな奥二重の瞼、しっかりした眉毛。よく見たら、割と男らしい顔してるんだよな。 「あ、はい」 「なんか、かっこよくなったな」 「……まじすか」  鴫野の頬が少し熱くなる。 「眉毛?」 「はい。あと、筋トレとランニングしました」  やっぱり。ちゃんとやってたんだな。こういうところ、いじらしくてかわいいなと思ってしまう。 「がんばってんな」  愛されてる実感みたいなものが湧いてきて、思わず頬が緩んだ。 「あざす」 「じゃあ、鴫野に頑張ってもらお」  俺は鴫野から手を離すとベッドに大の字になった。 「は」  ぽかんとしている鴫野は俺の言った意味がわかっていないようだった。 「楽しませろよ?」  笑ってみせると、鴫野の喉仏が上下した。  鴫野の男臭い一面を見るたびに、腹の中が甘く疼いた。

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