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第19話 十二月某日【お前の口から聞かせて】蓮見
合格の連絡が来た。
担任からさらりと伝えられたそれを、俺は誰よりも先に鴫野に知らせたくて、すぐにメッセージを送った。
『合格した』
メッセージにはすぐに既読がついた。
『おめでとうございます!』
間を開けず返ってきた返信に頬が緩む。
『ありがと。また放課後な』
もうすぐ休み時間が終わる。それだけ送って、スマートフォンをリュックの中にしまった。
早く放課後になればいいのにと思いながら窓の外に視線を投げた。快晴の空、眩しい日差し。風もなく穏やかな天気の外の景色を眺めていると、これから授業を受けるのが馬鹿らしくなる。
あいつと、どこか出かけたいなんて、ぼんやり考えていると授業開始のチャイムが鳴った。
あれから一日中そわそわしている。
六限の授業の後、ホームルームが終わって、掃除を上の空で終わらせて。俺は荷物を引っ掴んで教室を飛び出した。
鴫野はいつもの場所で待っていた。壁に寄りかかって、スマートフォンを弄っている。
「鴫野」
呼ぶと、鴫野はすぐに顔を上げた。
「お前んち、いくぞ」
鴫野の顔を見るなり腕を掴んで引っ張る。おもちゃ売り場の子供みたいだと思いながらも、逸る心は止められない。
「……っす」
鴫野は何も言わずついてきた。
鴫野の部屋に着くなり、俺は鴫野に抱きついた。鴫野の匂いがする部屋。鴫野の首筋に鼻先を押し付けて、鴫野の匂いを肺いっぱいに吸い込む。
変態くさいとはわかっているけど、止められない。多分匂いフェチなんだろうと思う。好きな奴の匂いはいっぱい吸いたい。
「先輩?」
「甘えちゃダメかよ」
「や、いいっすよ。ただ」
あ、やばい、引かれたかも。
「ここだとアレなんで、ベッド行きましょ」
耳元に吹き込まれる鴫野の声は低く甘くて、腰が砕けるかと思った。
抱き合ったままそろそろとベッドのそばまで行って、倒れ込むと、受け止めたスプリングが苦しげに軋んだ。
「先輩、合格おめでとうございます」
鴫野は苦しいくらいに抱きしめてくれた。温度も匂いも濃くなって、頭の中がぼんやりとしてくる。
「ん」
「俺なんかが言うのもあれですけど、頑張りましたね」
「ん」
素っ気ない返事をしてしまうけど、嬉しい。ただただ鴫野に与えられるものを享受したくて、鴫野に擦り寄る。
「先輩?」
「しぎの、して」
「いいんすか」
「おれが、してーの」
俺の声に反応して、鴫野が喉を鳴らす。わかりやすすぎ。でも、それで興奮してくれるのが嬉しくもある。
「しぎの、な、はやく」
俺ばっかりしたいみたいで嫌なのに、体が熱くて止められない。
「準備、してある、から、はやく、しろ、よぉ」
早く触ってほしくて、甘えた声を上げてしまう。こんなかわいくもない声、出したいわけじゃないのに。
「ほんと、あんた、それ、反則ですよ」
鴫野は俺をシーツに押し付け、のそりと俺に跨って覆い被さる。
俺を見下ろす眠そうな目は欲情で濡れている。
伸ばした手で鴫野の頭を引き寄せて、唇を重ねる。合わせた唇を深く重ねて、舌を捩じ込んで誘う。
はやく、俺のことをぐちゃぐちゃにしてほしくて、わざと音を立てて唾液を混ぜる。鴫野の肉厚な舌が躊躇いがちに俺の舌を撫でるだけで、背筋を甘いものが駆け抜ける。
まだキスだけなのに、俺の身体は期待で熱くなって、勝手に感じた快感に昂り、張り詰めていた。
思わず膝を擦り合わせてしまう。
何度も角度を変えて、舌を絡めて、唾液を混ぜて飲み込む。鴫野の味がする。鴫野の、甘い味。
「っ、は、先輩」
「ん、ふぁ」
そっと解放された唇は心なしか甘く痺れていた。
「熱烈、すね」
鴫野が笑う。俺の爛れた胸の中なんて知らないような優しい笑顔に、心臓が握りつぶされそうだった。
「しぎの」
「先輩、もっとしていい?」
「ん、して」
口を開けて、舌を伸ばして誘うと、荒々しく奪われた。
さっきまでのは挨拶だとでも言うみたいな、本能の匂いがする、食われるようなキスに眩暈がした。
鴫野も、ちゃんと俺に欲情するんだなと、頭の隅でぼんやり考える。俺ばかり好きみたいだなんて思っていたさっきまでの思考は全否定されて、甘い充足感が胸に満ちる。
まだ、キスだけなのに。こんなんじゃ、抱かれたらどうなってしまうのか見当もつかない。
舌を何度も吸われ、甘噛みされて、ずっとやらしい水音がしている。
合間に聞こえる荒い呼吸は、鴫野と、俺のものだ。
痛いくらいに吸われて、舌と唇が解放される。
熱い吐息が混ざる。
離れた唇を、つい目で追ってしまう。
「先輩」
溢れた唾液を、鴫野の手のひらが拭った。
「続き、します?」
「ん」
鴫野の手がそっと制服を剥いでいく。
俺も鴫野から制服を剥がしていく。
皺になるからとベッドから落として、下着も靴下も取っ払って、裸で抱き合う。
少し逞しくなった気がする鴫野の肩を、胸を撫でると、くすぐったいのか、鴫野は笑った。
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