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第22話 十二月某日【上書き保存】鴫野
今日も先輩を廊下で待っていた。
先輩の受験も無事終わって、期末テストも終わって、やり残したことといえば。
「なぁ、鴫野」
やってきた先輩は開口一番、俺を見上げて悪戯ぽい笑みを浮かべた。
「前言ってたやつ。俺の思い出、上書きするの、手伝えよ」
いよいよ、この日がやってきてしまった。
「……ッス」
俺は強張った喉から、なんとか声を絞り出した。
緊張していないと言ったら嘘になる。
先輩と、校内で所謂いけないことをする。のだ。多分。そんなの、緊張しないはずがない。
放課後の図書館。密やかな話し声とペン先がノートを引っ掻く音、ページをめくる音が混ざり合い、ざわめきが漂う。
生徒が疎らに座る席の並ぶスペースを抜け、一番奥の書架を覗いた。
カメラを構える。
俺の脳内では、あの人が知らない誰かとキスをしている。
少しだけ背伸びして、上履きの踵が持ち上がる。綺麗な指が学ランの襟元を握って、長いまつ毛を伏せて、柔らかい唇が、誰かの唇と重なる。
もちろんそんなことはなく。それはただの俺の妄想で、そこにはただ、夕焼けの落とした影でできた薄暗い空間があるだけだった。
デジタル一眼のシャッター音が、やけに大きく響いた。
そんなことがあった一年前。そして今はというと。
「お前、期末は?」
「ああ、まあ、なんとか平均以上かなって感じです」
そんな話をしながら俺と先輩は図書館へ向かう。傍から見れば、テストが終わってなお勉強しようという意欲ある善良な生徒に見えるかもしれない。
しかしながら、今日の俺たちはそれとは正反対の、不埒な行為に及ぼうとしている。
静かな図書館は勉強しているお手本のような生徒がちらほらいる。新刊コーナーを眺める生徒も、雑誌コーナーを物色する生徒もいる。
そんな彼らを横目に見ながら、俺と先輩は空いた席に荷物を置いて、先輩に続いて一番奥の書架へ向かう。
見たことがある景色に、俺は足を止めた。
「先輩、本当にここ?」
抑えた声で言うと、先輩は振り返る。
「そうだよ」
「まじか」
俺が撮ったのと同じ場所だった。棚に並ぶのは百科事典とか、なんとか大全みたいな分厚い、誰が読むんだみたいな本が並ぶ一角。人気もないし、いけないことをするには完璧なロケーションだ。
「おい」
小声で急かすように呼ばれ、先輩の手が腕を引っ張る。俺は言われるまま、誘われるまま、書架の陰に入った。
古い本の、紙の匂いが濃くなった気がした。
日暮れの近い棚には影が落ちて薄暗い。それがまた、背徳感を煽る。
「早くしろよ」
先輩の手が学ランの襟元を掴んだ。
そのまま引っ張られて、思わず前のめりになって、俺の先輩の唇が触れる。
先輩は唇を押し当てて、舌を捩じ込んできた。
舌を掬われて、吸われて、声が出そうになるのを必死に堪える。
涎の混ざる音が立ちそうで、キスに集中できない。心臓の音が周りに漏れるんじゃないかってくらいうるさく、耳の奥に反響している。
少し向こうには、他の生徒が真面目に勉強してる中、こんな不埒なことをしているのが堪らない背徳感になって、燻る劣情に火をつけていく。
先輩が柔らかい唇が、ずっと俺に食らいついている。
舌先が、生き物みたいに口の中を這い回る。
やばい。やばい。
先輩のシャンプーの匂いがする。俺の身体はそれでまた反応する。
「は……」
小さな息継ぎの音がして先輩の唇が離れた。
呆けている俺をよそに、先輩は膝立ちになった。
「せんぱ」
「し」
俺を黙らせると、先輩は悪戯な笑みを浮かべて俺を見上げる。先輩の顔の前には、うっすら盛り上がった俺の股間がある。このシチュエーションは。
唇を舐めながら、綺麗な指がスラックスのジッパーをゆっくりと下げていく。
ちょ、これって。
スラックスの下の下着をずり下げ、先輩は器用に俺のちんこを取り出す。
キスだけで完勃ちのそれははっきりと頭を擡げていて、しゃくりあげながらだらだらと涎を垂らしている。
先輩はそれをなんの躊躇いもなく咥えた。
正直、焦った。
昨日、風呂には入ったけど、もう一日経つわけで。先輩、そんな汚いの、咥えちゃだめですって。そう思うのに、そんなものを先輩が咥えているという事実に興奮する。
こんなの、予想していなかった。キスはするだろうと思っていたけど、まさか、フェラまでしてくれるとは思わなかった。
待って、先輩、あいつにもしたの?
そんなおれの思考を遮るように、先輩の舌がざらりと裏筋を撫でる。
もうおれの頭の中はぐちゃぐちゃだった。
熱くて柔らかい口の粘膜と舌に撫で回されて、涎をまぶされて、すぐにいってしまいそうだ。
声を出せないのが、こんなに辛いと思わなかった。
口を手で覆って、ゆっくり鼻で呼吸する。それでなんとか堪えられるくらい。
そうしている間にも、先輩は深々と俺のを咥え込んで、形の良い鼻先をスラックスの前から覗く濃い茂みに突っ込む。
そこからゆっくり頭を引いて、また根元まで飲み込んでいく。
先輩の形の良い唇が、俺のいきりたったものを咥え込んでいる。その事実を見下ろして、眩暈がした。目を伏せた先輩のまつ毛とか、ずっと通った鼻筋がスラックスからはみ出した茂みに触れるのとか、スラックスにしがみついた指先とか。
ゆっくりと繰り返される動きに視覚からも煽られ、柔らかい口の中で擦られて、俺はもう限界だった。
熱いものが上がってきて、頭の中はそれを出すことでいっぱいになる。
濡れた目にちらりと見上げられて、俺は思い切り先輩の口の中にぶちまけた。
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