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第24話 十二月某日【写真部】蓮見

 その日、俺は気まぐれに写真部の部室を覗きに行った。鴫野と約束をしているわけじゃなかった。なんとなく、部活中の鴫野が見たかっただけ。  部室に行くと、鴫野はいなかった。代わりに、三年の、何度か部室で見かけたことのある女子生徒がいた。 「あ、蓮見くん」  普通に名前を呼ばれて、そうか、名前知られてるのか。と思った。女子生徒は続けた。 「パパはちょっと外出中だよ」 「そっか」  いないなら大人しく帰ろうかと思ったところで、思わぬ言葉が聞こえた。 「多分すぐ帰ってくるから、待ってれば?」  思わず目を見開いてしまった。  女子生徒は他意も無いようで、どうぞ、と言う。  写真部の部室に通された。まともに入るのは初めてだった。 通されたのは部室の中央に置かれた長机とパイプ椅子の席。 「どーも。ええと」  鴫野以外の写真部のメンツはまるで知らない。この子が同じ三年だというのは辛うじて上履きでわかる。 「部長の枝川でーす」 「枝川さん」 「ミルクティーでいい?」 「あー、お構いなく」  接待用の飲み物まであるのかと感心した。  写真部の部室は運動部のそれよりも少し狭い。人数の問題もあるかも知れない。壁に並ぶロッカーの数は明らかに少ない。 「蓮見くん、もう推薦の合格出たんでしょ?」  枝川さんは俺の斜め向かいに座った。 「あぁ、うん。なんで知ってんの」 「パパから聞き出した」  相変わらず、あいつパパって呼ばれてんのか。 「そっか」 「暇なら、写真部入る?」 「え」 「あれ、パパと仲良いから、写真好きなのかと思った」  そうか、側から見たらそういう風に見えるのか。俺が呼び立てて連れ回してるようなもんなのに。 「まぁ、嫌いじゃねーよ」  嫌いじゃない。  素直じゃねーなと思うけど流石に好きと言うのは照れるから、そう言うしかない。 「考えといて。うち、三年は三月までいるから」 「ん」  俺は曖昧な返事をした。興味はあるが、部活に入るほどかというとそうでもない。鴫野が撮っているのを眺めている方が楽しいような気もする。  鴫野と同じ部活、ね。  思わず頬が緩んだ。 「楽しそうじゃん。入るよ」  鴫野が驚いた顔が見たかった、というのもある。 「は、ほんとに?」  枝川さんも驚いていた。言い出しっぺが驚くなよ、とは思うが、無理もない。完全に思いつきで、ただ楽しそうだから乗った。 「入部届とか書く?」 「お試し入部なら書かなくてもいいよ」 「はは、じゃあそれで」  こうして俺は、写真部にお試し入部することになった。  案の定、戻ってきた鴫野は二度驚くことになった。  一つは俺が部室にいること。  もう一つはお試しだけど俺が写真部に入ったこと。 「まじか……」  枝川さんに聞かされて、鴫野は複雑そうな顔をしていた。 「なんだよ、ダメなのかよ」 「いや、いいんですけど、なんかこう、家族に紹介するみたいな気分です」 「じゃあパパ、蓮見くんの面倒見てあげて。次期部長なんだから」 「ッス」  お兄ちゃんなんだから、みたいなことを言われて、鴫野が渋々返事をする。こいつ、次期部長かよ。すげえな。 「そうなの?」 「らしいです。部長の言うことは絶対なんで」  卒業まで、退屈することはなさそうだった。

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