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第25話 十二月某日【俺と先輩のクリスマス】鴫野

 先輩に出会うまで、俺は女の子が好きだった。先輩に出会ってからも、先輩以外の男には興味がない。もし今、天文学的な確率の奇跡が起きて女の子に告られても多分きっと先輩を選ぶ。  今の俺はそんな状態だ。  そんな状態で、これからクリスマスを迎える。  先輩と過ごす、恋人と過ごす、初めてのクリスマスがやってくる。  二学期最終日。クリスマスイブの、さらに前日。終業式の後、写真部でささやかなクリスマスパーティー兼先輩の歓迎会が開かれた。何気にこういうお茶会開くの好きなんだよな、うちの部。  部室でひとしきり騒いで、お開きになった後。  解散して、先輩となんとなく校門まで出てきたところで、口を開いたのは先輩だった。 「な、お前んち、行っていいか」 「あ、いいっすよ」  当然そうなるつもりでいた俺は特になんてことないことだと思っていたのに、先輩の様子がおかしかった。 「あ、その」  言いにくそうに口をぎこちなく動かす。なんだろうと考えて、思い当たった言葉を口にする。 「……泊まります?」  俺の希望でもあった。先輩を見ると、先輩は縋るような視線をこちらに向けていた。そんな顔しなくても、断ったりしないのに。 「いいっすよ。親には、話しとくんで」  できるだけ優しい声で言う。 「しぎの」  先輩の表情が少し明るくなった。この人のこういうところ、本当にかわいい。 「俺だって、先輩といたいですよ。少し早いけど、クリスマスですし」  この人、自分だけワガママ言ってると思ったんだろうか。俺だって、クリスマスはあんたといたいのに。なんなら、年明けも、冬休み中も、ずっと一緒にいたいくらい。 「……だめ、すか」  今度は俺がお伺いを立てる番だった。 「だめじゃねーよ」  先輩は照れたのか、俯いた。嫌じゃないなら善は急げだ。 「ならよかったです。ケーキとかチキンとか食います? 何か買いに行きましょうか?」 「いい、お前としたい」  俺のことをまっすぐ見て、そうやって、ストレートに言ってくれるところ、堪らなく好きだった。  こうして、俺は奇しくも性の六時間よりもだいぶ早く先輩をいただくことになった。  準備は全て終わって、ベッドの上。  カーテンの外は暗くなり始めていた。部屋の明かりは枕元のライトだけ。ローションとゴムを用意して、俺と先輩は布団に潜って抱き合った。 「ね、先輩。俺の、まだ一回も根元まで入ったことないんすけど」 「なんだよ、でかい自慢かよ」 「違います。先輩、奥、入れていいですか」  この前、今度ゆっくりしたいと言ったアレのこと、先輩は覚えているだろうか。クリスマスだし、許してくれないかなと頭の隅で考える。 「……ケッチョーのこと?」 「そうです」  先輩は神妙な顔で俺を見た。あれ、嫌だった? 「先輩の結腸処女、もらっていいですか」 「何だよそれ」  先輩が笑う。あれ、そういうふうに言わないんすか? 「俺にはあんたを嫉妬させるような過去はないけど、あんたには俺を嫉妬させるだけの過去があるんすよ」  そういうこと。上書きしたいのは、いつだって先輩の過去。過去に嫉妬してるよりは未来に目を向けたほうが建設的、なんだろうけど。  俺の初めてを奪った人の、初めてを奪いたい。 「わかったよ」  先輩は納得してくれたのか、薄く笑った。 「いてーの嫌いだから、優しくしろよ」  その挑発的な笑みが好きだった。俺なんか到底敵わない、それでも誘われずにいられない笑み。優しくします。そういうのは趣味じゃないんで。 「……ッス」  キスから始めて、先輩をシーツに押し付けて、唾液を混ぜ合う。もう何度もしているのに、何度しても甘やかな緊張感がある。鼻先に感じる先輩の肌の温度が、触れ合う場所で混ざる体温が、胸をざわつかせる。  がっつかないように、気を付けながら先輩の唇を、舌を、口の中を味わう。  先輩のとろけるような唇は熱かった。生き物みたいに動く舌は俺を簡単に翻弄して、食い合うみたいなキスは、俺の熱を高めていく。  首筋に吸い付くと、先輩はくすぐったそうに笑った。  先輩の匂いがする。先輩のシャンプー匂い。理性が削れて、その削りカスが、熱い澱みになって腹の底に溜まっていく。  顔に、先輩のあったかい手が触れる。両手が頬を包んで、確かめるみたいにキスをされた。唇は溶けそうなくらい柔らかくて熱くて、離れてしまうのが名残惜しかった。  先輩は柔らかく笑うと、手のひらが滑り降りていく。首、鎖骨、胸をたどって、最近うっすら見えるようになってきた腹筋を確かめるようになぞっていく。臍を指先で撫でて、その下、ろくに触っていないのに茂みから聳り立つそれに触れた。 「は、ガチガチ」  俺を見上げる、獰猛さを孕んだ笑みに息を呑んだ。  先輩の手が、するりと完勃ちのそれに触れる。撫でられただけで大袈裟に震える、俺のちんこ。 「ほんと、でかいよな」  先輩は独り言みたいに言って、唇を舐めた。 「これで、可愛がってくれるんだろ?」  やんわりと扱かれて、それだけで腰が震えた。  見上げる先輩の瞳には挑発的な光が宿っていて、俺は声も出せずに頷いた。

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