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第29話 十二月某日【別人】蓮見
「こう、していい?」
「ん、いい、から」
髪を下ろして無精髭があるだけなのに別人みたいで、なのに声も仕草も俺を見つめる目も鴫野だから、俺の頭は混乱していた。
「しぎの」
俺の口から漏れる声は、勝手に上擦ったものになる。
「みきたか、って呼んで」
「みきたか」
俺が呼ぶと、鴫野は柔らかな笑みを返した。
「今度から、髪下ろしてしましょうか。休みの時はヒゲ剃らないで」
俺は息を飲んだ。嬉しい。嬉しいけど、今ですらこんななのに、毎回そんなことされたらきっと心臓がもたない。
「こう?」
身体が熱い。
息が勝手に上がって、苦しい。
鴫野の見た目が違うのが、いつもと違う呼び方なのと相まって俺の心拍数を加速させる。
「して、みきたか」
柔らかく笑った鴫野に頬を撫でられるだけで、甘い息が漏れる。初めてじゃないのに、初めてするみたいだった。
俺がリードしなきゃと思うのに、今まで鴫野とどうやってしていたか、うまく思い出せない。俺、どうしてた? 鴫野と、どうやってたっけ。
ぼんやりと鴫野を見上げると、鴫野は柔らかく笑っていた。
その笑顔が近付いてきて、そっと唇を塞がれて、熱を逃すところがなくなる。舌を絡め取られ、唾液が混ざって、舌ごときつく吸われる。
気持ちよくて、腹の底にどんどん熱が溜まっていく。
鴫野が、あの鴫野が、あの、眠そうな陰キャが、こんなふうに化けるなんて思わなかった。
悔しいのか、嬉しいのか、もうよくわからない。
「ん、ふ」
優しく奪われた唇が甘く痺れて、離れる唇を物欲しげに目で追ってしまう。
その先には、甘い笑みが見えた。
「こう、俺と同じ匂い、する」
鴫野の唇が首筋を這う。肌に触れながら言われて、認識した鴫野の匂いに全身が粟立つ。俺から、鴫野と同じ匂いがする。同じシャンプー、ボディソープを使っているから当たり前なんだけど、全身が鴫野の匂いに包まれているみたいで、嬉しくて脳髄まで溶かされそうだった。
首筋を、鴫野の舌が這う。熱い舌が、ねっとりと薄い皮膚をなぞっていく。弱い場所を晒して、食われるみたいな緊張感に、喉がひくつく。
本能に近い場所で触れ合っている感じが、堪らなく興奮する。
鴫野は俺の肌を舐めて、吸い付いて、鎖骨のあたりを優しく齧っていく。
また、腹が熱く疼いた。
腹に、ぽたりと熱いものが垂れて、意識が自然とそちらに吸い寄せられた。鴫野がいるから見えないけど、腹につきそうなくらい反り返った俺のちんこから、透明な雫が垂れ落ちたのだとわかる。
先端の小さな裂け目から、止めどなく透明な液体が溢れてくる。
「こう、よそ見しないで」
「っ、ぅ」
そっちに気を取られた俺を咎めるみたいに、鴫野はすっかり尖った乳首を舌先でくすぐる。
すっかり芯を持った肉粒を丁寧に舐められ舌先で捏ねられると、甘い快感が全身に広がっていく。
「っ、みき、たか」
「気持ちいい?」
「ん」
濡れた音を立てて吸われると、びりびりと甘い痺れが脳髄まで抜けた。
「っ、腹、熱い」
「ふ、こんな、ぬるぬるにして」
ぬるりと、張り詰めた先端を撫でられて腰が震えた。おれのちんこは先走りで濡れそぼって、下生えまで濡らして酷い有様だった。
「っ、あ、だっ、て、こん、なの」
「こう、俺でとろとろになってくれるの、嬉しい」
「言う、な、って」
声が震える。
鴫野が、俺が感じ過ぎてドロドロになっているのを、嬉しく思ってくれてる。それが嬉しくて、胸が幸せで満ちる。
濡れた音を立てて、鴫野の大きな手のひらが俺のを扱く。
「みき、たか、気持ちいい」
緩急をつけて鴫野の手のひらが俺のを擦る。
腰が勝手に動いて止まらない。気持ちよくて、全身が溶け出しそうだ。ゴムつけなきゃと頭の隅で考えていたことなんて簡単に消し飛んだ。
すっかり昂った俺のが、鴫野の手の中で跳ねる。
「みきたか、いく」
「ん、だして」
「っう、あ、は」
もっと気持ちよくなりたくて、鴫野の手の動きに合わせて腰が揺れる。
「こう」
吐精を促すように呼ばれて、俺の身体は素直に反応する。鴫野に与えられる快感は、そろそろ俺の限界を越えそうだった。
「っく、あ、ぅ」
脈打って思い切り吐き出した白濁が、鴫野の手を汚して、腹に散った。
「みき、たか」
鴫野は俺に見せつけるみたいに白く汚れた手を舐めた。それから身体を下にずらして、散った白濁で汚れた腹を舐めた。唇から赤い舌がちらりと覗くたびに、喉が渇く。
そこだけじゃなくて、おれのも舐めてほしくて縋るような視線を向けてしまう。
「みきたか、おれのも、なめて」
俺の甘ったるいお願いに応えて、笑みの形の鴫野の唇が挨拶するように、緩く勃ち上がった先端にそっと触れた。それから、待ち望んだ赤い舌が、裂け目を優しくくすぐった。
「っあ」
「気持ちいい?」
「ん、う」
俺のわがままなのに、鴫野はちゃんと応えてくれる。
射精で柔らかくなった幹を根元からねろりと舐め上げられて、唇で段差を扱かれる。そうすると再び硬く張り詰めてとろとろと濁った先走りを溢れさせる。
「っ、あ、や、あ、だめ」
思わず口走っただめの意図をちゃんと理解してるのか、鴫野は止めない。丁寧に舐めしゃぶられて、溢れる先走りを啜られて。そんなふうにされたら、すぐいってしまう。
「みき、たか」
もっと気持ちよくなりたくて、俺は鴫野を呼ぶ。
「いいよ、こう、だして」
諭すような声がして、俺のものが鴫野の熱い粘膜に包まれた。
「あ、ぁう」
もう限界だった。
腹がひくつく。
俺は鴫野の口に、全部出した。脈打って、吐き出したものを鴫野は口で受け止めてくれた。
鴫野の喉が、こくんと鳴った。
散々吐き出して大人しくなった俺のが、するりと唇から抜け落ちて、腹の上に横たわる。
「のんだ、のかよ」
「はい」
「ばか」
吐精後の荒い呼吸の合間。くしゃりと鴫野の髪を撫でると、鴫野は白く汚れた唇を舐めて笑った。
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