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第36話 一月某日【苦しいやつ】蓮見
「ん、はぁ、みきたか」
ベッドに座った鴫野のベルトを緩めて、スラックスの前を寛げて、下着をずり下げると、緩く頭を持ち上げた鴫野のちんこが元気よく顔を出す。
俺の前に晒されてぴくりと反応するそれに、俺は挨拶代わりに丸く張った先端にキスをする。
そのまま舌を這わせて張り詰めた先端を撫で回して、溢れてきた鴫野の味を掬い上げて飲み込む。
そうしているうちに、硬さを増し、大きく長く、鴫野のちんこは凶器みたいに育っていく。
これを、これから口に入れて舐めるのかと思うとぞくぞくする。
Mじゃないと思ってたけど、もしかしたらそうなのかもしれないと最近になって思うようになった。鴫野に征服される感じが、支配される感じが、堪らなく好きだ。自分より経験の少ない鴫野にいいようにされる悔しい気持ちはあるのに、それ以上に生まれる快感が強くて、抗えない。もっと欲しくなるのが怖い。なのに、止められない。
「こう」
鴫野の指が、優しく髪を撫でていく。
すっかり芯を持って硬くなった鴫野を、根本から舐め上げる。裏筋を舌先でくすぐって、えずかないぎりぎりなところまで飲み込んでいく。
本当、鴫野のはでかいし、長い。全部は口に入りきらないから、入らない分は手で扱く。
顎が疲れた。なのに、鼻に抜けていく鴫野の匂いに、俺の身体はどこまでも浅ましく腹の奥を疼かせてしまう。
俺の身体はもう、これがどこまで届くか知っている。奥の襞をぶち抜いて、柔い奥を小突いて、内臓を捏ね回す。禍々しささえ感じる、グロテスクな鴫野の雄の象徴。
これを、喉を奥まで開けて突っ込んだらどうなるだろう。
そんな好奇心に負けて、俺はできるだけ喉を開けて、しゃくりあげる鴫野の凶悪な性器を深々と喉奥まで飲み込んだ。
「せん、ぱ」
鴫野の焦ったような声がする。
喉奥まで突っ込んでしまったから返事はできない。
反射でえずいて、喉が痙攣する。なんとか鼻で呼吸するけど、苦しい。苦しいのに、腹の疼きが止まらない。
「っ、あ」
頭上で、鴫野の力ない喘ぎが聞こえて、口の中を埋める鴫野のちんこが跳ねた。気持ちいいなら何よりだ。
頭を引いて喉から引き抜いて、また奥まで入れて。その度に俺の喉は勝手にひくついて鴫野を締め上げる。
「喉、やば」
鴫野が独り言みたいに言う。
「こう」
鴫野の手が、優しく後頭部に添えられる。
それでも、その手は決して押さえつけたりしない。
「っ、ん、で、る」
呻くような、何かを堪えるような、鴫野の低い声がした。
口の中で、鴫野の逞しい幹が脈打つ。喉奥に、熱いものが放たれた。
いつもよりも、長く感じる脈動。鴫野も気持ちいいんだろうか。何度も脈打って、熱いザーメンが喉奥に注がれていく。
俺の腹の中に、鴫野の精液が落ちていく。鴫野が俺の一部になるみたいで、胸が高鳴る。
芯のなくなった鴫野のそれがずるりと口から出ていく。喉奥まで犯していたものがなくなり、空気を吸い込んだ俺は、えずきながら咳き込む。涙が出た。
「先輩、大丈夫?」
「っ、はぁ、だい、じょぶ」
「もー、無茶しないで」
鴫野の大きな手のひらに背中をさすられる。
そうは言われても、やってみたかったんだからしょうがない。
苦しかったけど、俺の身体はすっかり昂ってしまっていた。スラックスの前は不恰好に押し上げられている。幸い、鴫野にはまだ気付かれていない。
「気持ちよかった?」
鴫野の太腿に頭を乗せて見上げる。
「……ッス」
遠慮がちな返事と一緒に、鴫野の指先が髪を梳いていく。
安心して、思わず笑った。
「お茶持ってくるんで、ちょっと待っててください」
太腿に置いていた頭をそっとベッドの上に降ろされ、ベッドを降りた鴫野は慌てて部屋を出て行った。
足音が遠くなっていく。
一人になって、小さく溜め息をつく。
苦しいのに、気持ちいい。癖になりそうだった。
やばいなと思う。こんなの、鴫野に気付かれたら絶対引かれる。
そう思うのに、俺のは、すっかり硬くなっていた。やばい。したい。でも、もう鴫野が帰ってくる。
スラックスの上から緩く撫でただけで、腰が揺れた。鴫野に直接触られたい。
「先輩、お茶」
鴫野がグラスにお茶を注いで持ってきた。
「みきたかぁ」
呼んだ声がひどく甘くなってしまった。
身体が熱くて、鴫野に触って欲しくて、腹がせつなく疼く。
「なあ、抜いて」
「っ、え」
鴫野はグラスを持って立ち尽くしている。
「勃った」
俺が笑うと、鴫野はグラスをテーブルに置いて、ベッドにしなだれかかる俺に後ろから覆い被さった。背中に感じる鴫野の体温があったかくて気持ちがいい。
「もう、あんな無茶、しないで」
鴫野が甘えるように鼻先を首筋に擦り付け、抱きしめてくれる。
「ん、気持ちくなかった?」
「気持ちいいけど、こうが苦しいでしょ」
鴫野の唇が項に触れた。
鴫野は優しい。絶対、無理やりとかしなさそうだ。今のところ、無理やりするようなことはない。いいけど、少し物足りなさは感じる。
「ん、へーき、だって」
「こう、優しくさせて」
穏やかな声に窘められる。
俺はいいのに、鴫野はそうじゃないみたいで少し寂しい。でも、そんな俺を慰めるみたいに、鴫野の手がすっかり硬くなった俺のものを布越しに撫でる。
「っふ、ぁ」
「苦しいので、興奮しちゃった?」
鴫野の手が、輪郭を確かめるように俺を撫でていく。それでまた俺は快感を拾って、身体を震わせる。溢れ続ける先走りで下着が濡れて気持ち悪い。
「ん、した」
「ふ、やらしーの」
鴫野が笑った気配がして、脳が甘く痺れる。
揶揄うような鴫野の声には楽しそうな響きがあって、俺は嬉しくなる。
「みきたかは、こんな俺、やだ?」
「そんな訳ないでしょ」
甘ったるい声で訊いた俺に、鴫野は間髪入れず言った。面と向かってなんて言えないことに、安心した。
「好きだよ、こう」
低く甘く、耳元で囁かれて、背筋を甘いものが這い上がる。
「みきたか、さわって」
俺のおねだりに応えるように、鴫野が俺のベルトを外して、スラックスの前を寛げる。湿った下着をずり下げて、顔を出した俺の勃ち上がった性器を、鴫野の大きな手が包み込むように握る。
「っう、みきたかぁ」
鴫野の熱い手のひらに握り込まれると、それだけで勝手に甘い声が漏れる。
「こう、かわいい」
鴫野の手が動くたびに、濡れた音がする。恥ずかしいのに、嬉しい。鴫野に触られて、気持ちいい。
先走りが止まらない。
「きもちい、みきたかぁ」
鴫野の手の動きに合わせて、腰が揺れる。
耳元に、鴫野の乱れた呼吸が聞こえる。鴫野も興奮しているみたいで、俺はまた限界が近付くのを感じた。
鴫野の手の中で、性器がひくんと跳ねた。
「っ、う、も、いく」
「ん、いって」
鴫野が首筋に優しく歯を立てた。
鴫野の大きな手に扱かれて、俺は甘ったれた喘ぎとともに熱いものを吐き出した。何度も脈打ち、吐き出して、鴫野の手を白く汚した。
「っは、ぁ」
頭の中が白く霞む。
鴫野の匂いのするシーツに突っ伏して、余韻に浸りながらとろとろと鴫野の手に白濁を吐き出す。
シーツから鴫野の匂いがして、耳元に、鴫野の荒い呼吸が聞こえる。鴫野も興奮しているのが嬉しい。
鴫野を振り返ると、ぎらつきの残る目に射抜かれる。
「こう」
それなのに、その唇から漏れる声は甘くて、俺の胸は高鳴ってしまう。
「したい、んすけど」
「ふ、いいよ」
了承の言葉と一緒に、俺は鴫野の唇に食らいついた。
結局、俺も鴫野も足りなくて、後ろの準備をして身体を重ねたのだった。
後始末は鴫野がしてくれた。鴫野はベッドを大きく占領している俺に嫌な顔ひとつせず世話を焼いてくれる。
「デートの行き先、決めとけよ」
「先輩、行きたいところとかないんすか」
丸めたティッシュをゴミ箱に放って、鴫野は俺の顔を見た。
「お前と行けるなら、何処でもいいよ、俺は」
俺が言うと、鴫野は頬を赤くして顔を逸らした。
「……考えときます」
耳が赤い。照れる鴫野はかわいかった。
場所はどこだっていい。鴫野と出掛けられるのが嬉しかった。
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