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第39話 二月某日【鴫野のブラウニー】蓮見

 二月になった。  三年は自宅待機で、学校へ行くことはほとんとなくなった。何日か登校日があって、他は各自自宅で勉強なりなんなり、ということになっている。  大学受験が本格化する時期だから仕方ないが、早々に合格した俺は三月の最後の期末テストの勉強、くらいしかやることがなかった。  他は、というと、ろくに会えない鴫野のことを考えて、ひとりですることが増えた。  しかも、鴫野に酷くされる妄想で、ケツを弄りながら抜くのが癖になっていた。毎日とは言わないが、結構な頻度で。  乳首を捏ねまわされて、中指と薬指で前立腺をやらしく捏ねられて、いじめられて。ちんこも一緒に弄られて、射精する。その後はケツを思い切り割り開かれて、鴫野のちんこを入れられる。皺が伸び切るくらい、鴫野の雁首を飲み込んで。  まあ、一人で全部は出来ないので、いつもなんとなく不完全燃焼で、それが余計にフラストレーションを溜めていた。  こんなの、知られたら呆れられる。引かれて、嫌われるかもしれない。  わかってるのに、止められない。  鴫野、はやく、こんなやらしい俺のところまで、堕ちてきて。  そんなことを考えながら、俺はまた、妄想の中の鴫野とよろしくやる。だけど、俺の妄想の中の鴫野は、いつだって俺の想像の範囲でしか動いてくれない。当たり前だけど、いい意味で俺を裏切ってはくれない。  もっと俺を翻弄して、ぐちゃぐちゃにしてほしい。  それができるのは、本物の鴫野だけだ。  早く、本物の鴫野に会いたい。  会いたいって言えば、きっと鴫野はいつだって迎え入れてくれる。それを邪魔するのは、俺のちっぽけで怖がりなプライドだ。鴫野にはあんなこと言ったくせに。  今日はちょっと無理ですなんて言われたら、多分立ち直れない。  だから俺は、俺から鴫野に会いたいって言えずに、ひとりで俺を慰める。  言ってしまえば、楽になるのに。  そしてやってきた登校日。  やっと鴫野に会えるのが嬉しくて、しなくてもいい早起きをしてしまった。  授業がある訳でもなく、ロングホームルームがあって、その後は各自自由。帰る奴もいれば、勉強していく奴もいる。  俺はというと、東堂の勉強を見守っていた。東堂は俺と勉強したいらしい。放課後までやることもなかったので、俺は東堂に付き合うことにした。  東堂の質問に答えたり、採点したり、問題が解けたら褒めてやったり。これ、大学に行ったら家庭教師できるんじゃないかと思ってしまう。 「ちょっと休憩」  ペンを置いて、東堂が背伸びした。  いつの間にか、時刻は昼前になっていた。 「昼メシ、一緒に食おうぜ」 「おう」  昼飯は東堂が買ってくれた。いいと言ったんだけど、付き合わせて悪いからと購買でサンドイッチを買ってくれた。しかも二個。東堂は一番高いやつを買ってくれた。  購買の帰り、バレンタイン前だからなのか、やたらチョコレートやら甘いものやらを貰った。クラスの女子、バスケ部のマネージャー、女子バスケの子、他にもまあ色々。甘いものは嫌いじゃないけど、これは流石に多い。東堂と一緒に少し食べたけどまだたくさん残っていた。  鴫野、食うかな。  ふと、そんなことを考える。早く会いたい。  その後も、何だかんだ夕方まで、東堂の勉強に付き合った。  各教科みっちりやって東堂は満足したようで、嬉しそうに帰っていった。東堂を見送って、貰った可愛らしい紙袋をいくつも提げて、俺は鴫野との待ち合わせ場所に向かった。  鴫野はいつもの場所で待っていた。  学校で会うのは久しぶりで、少し緊張する。そんなに長く会っていないわけでもないのに、制服姿の鴫野がなんだか新鮮に感じる。 「お待たせ。元気そうだな」 「先輩」  鴫野が笑った。その笑みに、俺の心臓は柔らかく脈打つ。久しぶりに見る笑顔だった。 「鴫野、チョコ好き?」  食べきれないチョコレートの袋をいくつも提げた俺は、鴫野が道連れになってくれないかとお伺いを立てた。 「まあ、あれば食う感じです」 「はい。食うの手伝え」  ドーナツが食えたから大丈夫だろうと思ってたから、まあ予想通りだった。持っていた紙袋の半分を差し出すと、鴫野は俺の顔と紙袋を見比べながら複雑そうな、何か言いたげな顔をしている。 「先輩、そういうことしてると刺されますよ」 「刺されねーよ」 「変なもん入れられますよ、チョコに」  こいつ、なんでそんなこと知ってるんだよ。でも流石にそれは嫌だ。 「それはヤダ……」 「ふふ、俺も一緒に食べたら、共犯っすね」  鴫野は笑う。共犯、という響きはなんだかとても甘いもののように響いた。 「じゃあ、先輩、これ」  紙袋が減ったことに喜んだのも束の間。今度は鴫野に紙袋を渡された。 「バレンタイン近いんで。ブラウニーですけど」 「ブラウニー」 「あれ、甘いもの、だめすか」 「いや、食えるけど」  まさか、鴫野からもらえると思っていなかった。嬉しい誤算だった。 「くれんの?」 「はい」 「ふふ、さんきゅ」  受け取った袋を覗くと、四角く切られて透明なフィルムに丁寧に包まれたブラウニーが見えた。 「手作り?」 「はい。昨日、作りました」 「誰が?」 「俺が」 「は……?」  紙袋と、鴫野の顔を交互に見る。 「お前が作ったの?」 「あ、はい」 「なんか、すげーな」  こいつ、こんなかわいいものも作れるんだな。ちょっと意外だった。 「先輩、ちょっと部室行っていいすか」 「いいよ。何すんの?」 「部室に、置いてきたいんすよ」  鴫野の手には大きめの紙袋があった。  覗くと、タッパーに入ったブラウニーが入っていた。  鴫野と、写真部の部室にブラウニーを持って行った。  部室には部長がいるだけだった。鴫野のブラウニーを渡して少しだけ世間話をして、鴫野の部屋へ向かった。

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