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第41話 二月某日【背徳の味】蓮見
「このまま、すか」
鴫野は後孔から指を抜いて、凭れ掛かる俺の身体を脚に乗せた。
背後で、ゴムをつける音と、ボトルからローションを垂らす音が聞こえる。それだけで俺の胸は期待で鼓動を早める。
「なあ、おれの、は」
ゴムはつけないと、という気持ちはある。だからそうやって訊くけど、実のところ、つけないで出すことを覚えてしまった俺はその誘惑に勝てない。出したもので鴫野の手を、シーツを汚す背徳感の味を知ってしまった。
そんな俺のことはお見通しなのか、鴫野は。
「こうはつけないで、全部出してみせて」
鴫野の欲を滲ませた低音が耳元に響いて、脳髄まで溶かされる。
「ン……ッ、バカ」
そんな申し訳程度の悪態をついて、俺は腰を少し浮かせた。ひくつく孔に鴫野が先端を押し当てて、ゆっくり埋めていく。
熱くて硬いものが前立腺を弾いて、何もしなくても俺の自重で、鴫野はずるずると奥まで入ってくる。
「あ、ぅ」
そっちに気を取られて他がおざなりになるけど、奥まで届いた鴫野に襞を押し上げられるとその快感だけで俺はいっぱいになってしまう。
「ん、く」
圧迫感はあるけどそれが気持ちよくて、俺は甘えた声を漏らす。少しずつ緩む奥の窄まりを捏ねるように鴫野がゆったりと腰を揺する。
勃ち上がり震える俺の昂りを擦ろうとするけど、気持ちよくて手が思うように動かせなくて、自由の利かない手を下手くそに動かす。中で鴫野から与えられる快感が上乗せされて、溶けそうだ。
「あう」
やばい。
ゆっくりなのに、逃げ場がないから、快感を逃せなくて苦しい。苦しいのに気持ちよくて、俺はもっと欲しくて強請ってまう。
「ッ、みき、たか、はやく、おく」
「こう、バックでしていい?」
鴫野とするときは圧倒的に正常位が多い。鴫野が顔を見ながらしたがるからだ。後ろからすることはあまりない。だから、少し興奮してしまう。
「ン、いい」
俺が頷くのを待って、鴫野は俺の身体を支えながら俺の身体をベッドの上に倒す。
「っは」
ずるりと鴫野が抜けて、俺は堪らず声を上げた。出ていく時の、大きな質量が中をこそいでいく感じが好きだった。
シーツの上に突っ伏した俺は、荒い息を隠しもせず、ケツだけ高く上げた間抜けな格好で鴫野を誘う。一度受け入れてしまったそこは、物欲しそうに続きをねだっている。
俺は鴫野に見えるように両手で尻の肉を拡げて、ひくつく窄まりを曝す。
鴫野の視線を意識してしまって、窄まりが物欲しげにひくつく。仕込んだローションが滲んでいるのがわかる。
「みきたか、はやく」
「っ、ほんと、あんた、そういうとこ」
鴫野の荒い息遣いが聞こえて、鴫野の興奮が伝わってくる。
「エロくて、好き」
鴫野の、低く響く呻くような声。抑えつけているものをひしひしと感じて、俺の身体はまた少し熱を上げた。
期待に戦慄く窄まりに、鴫野の逞しい猛りが再び押し当てられる。薄い膜越しにも、それがさっきよりも熱く硬くなっているのがわかる。俺は無意識に溜め息をついていた。
ゆっくり入れられて、半分を過ぎたくらいで奥の窄まりまで一気に突き入れられた。それはちょっとした衝撃で、俺は思わず喉を引き攣らせた。
奥まで入ったところで尻たぶに掛かった手を外されて、手綱みたいに両腕を掴まれた。そのまま鴫野は腰を打ち付ける。鴫野らしくない、荒い動きで奥まで突かれる。
この体制はやばい。身体が動かせないから、奥をガツガツと突かれて、生まれる快感の逃がしようがなくて、与えられるものをそのまま受け止めるしかない。
ひくつく奥の窄まりは、力強く打たれて歓喜する。もうすぐ陥落しそうなのがわかる。物欲しそうにぱくぱく口を開けて、鴫野にしゃぶりついている。痛みはない。ただ気持ちがよくて、俺はただ甘ったるい声を上げるしかできない。
「先輩、ここ」
「ん、ぅぁ」
「気持ちいい?」
「ん」
そんなの、気持ちいいに決まってる。
まともな返事ができなくて、でもなんとか気持ちいいことを伝えたくて、シーツに頬を擦り付けながら鴫野の声に何度も頷く。
「ふ、すげ、吸い付いてくる」
鴫野が、独り言みたいに低い声で呟く。その声がエロくて、俺は息を呑む。こうやって、雄を出してくるのずるい。
鴫野は陥落寸前の襞をねちっこく捏ねる。焦らすみたいに、最後のひと突きがなかなかこない。
不意に、鴫野は俺の腕をそっとシーツの上に下ろしてくれた。かと思えば、その大きな両手で尻の肉を鷲掴みにして、押し付けた腰をゆるりと回した。
だめだ。全部気持ちがいい。
陥落寸前の肉襞は甘えるみたいに鴫野にしゃぶりついて、早く奥に入ってほしいとせがむ。
「気持ちいいね。こう」
「あ、う」
口が閉じられなくて、溢れる涎でシーツを汚している。鴫野の指が尻の肉を雑に掴むその感じに、涎が止まらない。
涎を溢れさせる俺は、シーツを湿らせてしまう。汚して怒られるかもと思って、俺はまた期待に孔をひくつかせてしまう。
いつもなら引かれないように、上っ面を取り繕おうとするけど、こうなるともう何もできない。力が入らない身体は快感を欲しがって熱を上げていく。
「んぃ、あ……」
「こう、おく、入れるよ」
待ち望んだそれに、俺は必死に頷く。声を出す余裕もない。
とちゅとちゅと音を立てて陥落寸前の窄まりを小刻みに叩かれて、そこは少しずつ緩んでいく。
早く欲しい。早く、一番奥まで。
暴力的な、嵐みたいな快感で俺をぐちゃぐちゃにしてほしい。
「ふあ、みき、たか」
俺の腹は期待で疼く。
一際強く、鴫野が腰を叩きつけた。下生えの感触がわかるくらい深々と突き込まれて、襞は陥落。鴫野の張り詰めた熱い先端が、一番奥の柔い壁を押し上げた。
「っひ、あ」
熱い飛沫がシーツに散った。
ダメだ。また。
鴫野が奥を捏ねるたびに、俺のちんこは壊れたみたいに潮を吹く。
「あ、や」
気持ち良くて、声が上手く出せない。中は喜んで鴫野をきつく締め上げている。内腿が震える。
「こう、でる」
一番奥の柔らかい壁に、膜越しに熱いものが弾ける。何度も、何度も、熱が弾ける。膜越しにもわかる熱さと勢いが柔い粘膜を叩いた。
飛びかけた意識を引き戻すのは、それも鴫野だ。戦慄く粘膜を引き摺り出すように腰を引いて、一番奥から襞を捲るように抜けていく鴫野の猛り。抜けていくのが寂しくて、俺の中は必死に引き留める。かと思えば、奥まで突き入れられた。抜けそうなくらい浅い場所から、一番奥まで。鴫野は大きなストロークで、容赦無く中を擦る。引き出せば張り出した雁首が蕩けた粘膜をこそいで、突き入れれば一番奥の柔らかい部分を押し上げて、俺を絶頂まで攫っていく。
飛びかけては引き戻され、俺の視界は白飛びして、もう鴫野にされるがままだった。荒々しい鴫野の突き上げに揺すられて、切れ切れに掠れた声が漏れるだけだった。
「こう、また、っく」
中で鴫野が膨れ、熱いものが吐き出される。膜越しに肉壁を打つ、鴫野の熱いザーメン。
中で脈打つ鴫野を感じながら、俺は意識を飛ばした。
最後の方はもう、気持ちよくて何が何だかわからなかった。
寝起きは最悪だった。
喉はカラカラで、腰はだるいし、ケツは違和感がずっと残っていて、シーツはびしゃびしゃだった。
自分の家ならまだしも、ここは鴫野の家だ。自己嫌悪がひどい。
「先輩」
鴫野が俺を覗き込んでいた。心配そうに眉を下げて俺を見ている。
「お茶飲みます?」
「ん」
掠れた声で答えた俺は鴫野にグラスを渡されて、お茶を一口飲む。こんなときも鴫野は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
湿ったシーツに俺の体温が馴染んで気持ち悪い。なのに、身体は怠くて動きたくなかった。
「悪い、シーツ、汚した」
「いいっすよ。洗濯すればいいだけなんで。先輩こそ、身体大丈夫?」
「腰がだるい」
「ですよね。すんません」
「ふふ、いいよ」
手を伸ばして鴫野の頬を撫でると、鴫野は静かに唇を寄せてきた。俺はそれに応じる。
さっきまでの荒々しさが嘘みたいに、優しいキスだった。
「本物の俺はどうでした?」
「そんなの、いいに決まってるだろ」
そんなわかりきったことを訊く鴫野の唇に噛みついた。
そのまま、何度も啄むようなキスを繰り返した。
あんなに荒々しく俺の身体を穿っていた鴫野がこんなふうに穏やかに触れてくるから、ギャップがすごくて俺は思わず笑っていた。
「ふふ」
「どうしたんすか」
「腹減った」
小腹が減ったような気はしていたけど、どちらかといえば照れ隠しだ。鴫野にときめいてしまったのを誤魔化したくて、わざと素っ気なく言う。、
「チョコ、食います?」
「ん、食わせて」
「どれにします?」
鴫野はテーブルの上に並ぶ紙袋を見た。俺が食べたいのはもう決まっている。
「お前の」
「え」
鴫野は俺を見た。なんで今食うんすか、とでも言いたそうな顔だった。顔に出過ぎだろ。俺は先に食いたいタイプなんだよ。
「早く」
もたもたしている鴫野を急かすと、渋々紙袋を持ってきた。
俺が口を開けると、鴫野は包みから出したブラウニーを差し出す。俺は一口で食べた。
濃厚なチョコの味がする。美味い。
「美味いな」
俺の素直な感想に、鴫野は少しホッとしたようだった。
「先輩、週末、うちに来ません?」
鴫野の大きな手が頬を包む。
真っ直ぐに目を合わせるように俺の顔を覗き込む鴫野。その目は、いつもより熱っぽい。
「俺だって、寂しいんですよ」
そんなことを聞いてしまったら、俺は絶対、毎週来てしまう。
「いいのかよ。毎週来るぞ」
「いいっすよ。なんなら毎日来てほしい」
「強欲」
俺も鴫野も笑った。俺も鴫野も大概強欲だ。
「いいよ、気が向いたら、来てやるよ」
そうは言ったけど、週末も来る気満々だった。
日に日に大きくなるこの感情も、鴫野はまとめて受け止めてくれる。なんとなくそれがわかって、俺はまた頬を緩ませたのだった。
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