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第10話

 琉生の言葉をグルグルと頭の中で巡らせた佑里斗は、一度俯いて、決意をしたように顔を上げる。 「有難いですが、それはやめておきます。」 「え、何で」  琉生は思わずと言ったように声を出す。  そんな彼に対して、申し訳なさそうに眉を八の字にした。  断った理由は、単純に一人で生活する楽さを覚えてしまったからである。  隆志と一緒に住んでいた頃、家事は全て佑里斗が担当していた。が、これは働いてお金を稼いでくれている隆志と同じくらい自分も働くべきだと思って自らしていたこと。  けれど、やりたかったことでは無い。  性別のせいで中々アルバイト先を見つけられなかった佑里斗は、家の事は全部自分がやろうと、大学に行って帰ってきては家事と勉強を休む間もなく行っていた。  疲れた、しんどい、そんな心と体を無視して動く毎日。  それが一人になった今はそんなことを考えなくていいのである。  つまり今の生活は誰に気を使わなくてもいいので、心が楽だった。  そんなことを知らない琉生は、『もしかして、フられた……?』と表情を変えずにショックを受けている。 「一人が楽なんです。だから家に帰ります。」 「……危ないって」 「んー……でも、抑制剤飲めば……その時も大丈夫だと思うし。」 「抑制剤買う金はあるよかよ」 「それはまあ、一応バイトしてるし。」  佑里斗の返事を聞いて、琉生はハッと鼻で笑う。  バカにしたような、呆れたようなそれに佑里斗はムッとした。 「深夜のバイトは辞めろ」 「……色々と助けてくださったことは感謝してます。それに心配してくれているのも。でも、さすがにバイトのことまで言われると、辛いです。俺も生活がかかってるので。」 「倒れたくせに?」 「……何で怒ってるんですか。仕方ないでしょ。俺はそういう働き方しかできない。」  確かに、昨日であったばかりの大学の先輩に何を言われても腹が立つだけだよなと少しばかり反省する。  けれど、佑里斗から視線を逸らす琉生は、それでも一人にさせるのはダメだろうと、胸がソワソワして落ち着かない。

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